アンチエイジングといえば、女性の関心事と思いがちだが、そうではない。WHO(世界保健機関)の「世界保健統計2015」によると、平均寿命84歳の日本は世界一の長寿国だ。しかし男女別に見ると、女性は第1位なのに、男性は第6位にすぎない。日本では、女性は健康に気を遣っているが、男はそうでもないという現実がそこから見て取れる。本当にアンチエイジングが必要なのは、実は男性のほうだった!
今回のテーマはドライマウス(口腔乾燥症)。年を取ると唾液の分泌量が減る。その影響で歯周病が進みやすくなり、口臭も強くなる。ひどくなると舌や粘膜に痛みを感じ、食事をとるのも難しくなるという。
ドライマウスを改善するには口の周りの筋肉を鍛えること。基本は「よく噛む」ことだが、最新の研究からカラオケに効果があることも確認されている。
健康な人は1日1.5リットルの唾液を出す
「年齢の"齢"には"歯"という字が入るでしょう。口は身体の中でも老化を体感しやすい部分。年を取ると歯周病で歯がなくなったり、口臭が強くなったり、口が乾いたり、味覚が鈍くなったりする」と話すのは鶴見大学歯学部病理学講座の斎藤一郎教授。2005年に歯科大学の附属病院で初めてアンチエイジング外来を開設した「口のアンチエイジング」の第一人者として知られる。
その鶴見大学歯学部附属病院のアンチエイジング外来では、①歯の本数、②歯周病の進行度、③唾液の分泌量、④噛む力、⑤嚥下力(飲み込む力)の5項目で、口の老化を診断する。
「口の老化は全身の老化を反映する。噛む力と全身の筋力が正比例するというデータもあるし、鶴見大学歯学部附属病院の外来で調べてみると、唾液の分泌量が多い人はDHEA(男性ホルモンの一種)のレベルも高かった」と斎藤教授は続ける。
50歳を過ぎると「ドライマウス」に悩む人が増える。
日本語では口腔乾燥症といい、唾液の分泌量が減ることで文字通り口が乾燥する病気だ。「健康な人は1日1.5リットルの唾液を出すが、重症のドライマウスだと分泌量はその10分の1になってしまうこともある」と斎藤教授。ドライマウスがひどくなると舌や粘膜に痛みを感じるようになり、やがて食事をとるのも難しくなるという。
唾液には抗菌成分が含まれている。それが減ることによって、細菌やウイルスにも感染しやすくなる。また、唾液の分泌が減ると虫歯菌や歯周病菌が歯や歯茎から洗い流されず、長時間定着するため、虫歯や歯周病の進行が早まる。
歯周病は歯が抜ける大きな原因にもなり、その影響は全身に及ぶ。
新潟大学大学院歯学総合研究科の山崎和久教授らの研究グループは、マウスの実験で、歯周病菌が血液の中に入ると、HDL(善玉)コレステロール値の低下を引き起こすことや、高コレステロール血症のマウスでは歯周病菌によって動脈硬化が顕著に進むことを明らかにした(PLoS One. 2011; 6(5): e20240)。
さらに、唾液分泌量の減少によって口臭も強くなる。腸内細菌と同じく、口の中にもたくさんの細菌がいる。唾液の分泌が減るとそのバランスが崩れ、「カンジダ菌などの悪玉菌が増え、その死骸の臭いが口臭になる」と斎藤教授は話す。
現代人にとって、口臭は大きな問題だろう。2013年にデオドラント商品などを販売するブラシナが、20~50代の男女約600人に「職場で気になる他人のニオイ」を調査したところ、「汗の臭い」や「加齢臭」といった強敵たちを抑え、「口臭」がダントツ1位だった。実に60%以上の人が「気になる」と答えている(グラフ参照)。

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