斎藤:八田先生は、どう見てみていますか。

八田:私が心配しているのは、東京五輪の方ですね。おそらく2019年にはオリンピック関連の投資は終わっているでしょう。マクロ経済の専門家たちに言わせると、設備投資循環からもその頃から下がるという。ちょうど重なってしまう恐れがあります。

 さらに19年10月には、消費増税が控えています。そうなると19年には本格的に景気が悪化する可能性があるのではないかと懸念しています。私は、消費税を上げるよりも、所得税を上げる方がずっと良いと思っています。消費税は構造的に景気を悪化させます。消費増税をやるなら、景気を悪くしないような対策が必要です。

斎藤:消費税引き上げがより景気に悪影響を及ぼすというのは、消費税には逆進性の問題があるからですか。

八田:問題は色々ありますが、当面の大きな問題は住宅分野への悪影響です。日本の消費税というのは住宅の場合、建設した時点で総額にかかります。こんな制度は世界のどの国を見渡してもありません。

 消費税があるからといって、借金のクレジットライン(融資先に与える最高限度額)が増えるわけではありません。例えば、消費税率が0%から10%に上がれば、実質的な住宅投資は減ります。

 これが、消費増税後に景気を冷え込ませる原因です。駆け込み需要とその反動とはまったく異なる要因で、かなり長期的に景気を冷え込ませてしまうとみています。1997年4月に3%から5%に引き上げられた時も、2014年4月に5%から8%に上がった時も、借金をして買うような住宅や自動車などの消費において、この要因で景気を悪化させていたのです。

 改善するには、一つは諸外国のように、住宅には消費税を課税しないような措置をとること。もう一つは、住宅の購入時に消費税を課すのではなくて、固定資産税のように、所有に対して毎年課税することです。この方法ですと、借金の制約がマイナスにはなりませんから、景気を悪化させる影響は小さいと思います。

 確かに、財政再建のためには、何らかの増税が必要なのは明らかです。しかし、消費増税に対してみんなが嫌がるのは、景気を悪化させるからなのです。今まで財務省は、それに対する正しい対応をしてこなかったわけです。 僕は、その点が心配ですね。

消費税率の呪縛から逃れよ

斎藤:この点、小林さんはどう考えますか?

小林:日本の場合、消費税率は諸外国よりも低いことは間違いありません。

経済同友会の小林代表幹事

 八田先生が言われたように、日本の税制はリジット(厳格)な部分もあるかもしれません。また人々が日々の買い物で消費税を5%、10%と払うのに抵抗があるのはよく分かります。しかし、(高齢化が一段と深刻になる)2025年以降のことを考えて、しっかりとした税収を確保してあまねく取るには、もう消費税しかないと思います。

 確かに増税後に景気が悪くならないように、いろいろな知恵を出さなければなりません。消費税を上げても一部を消費者に還元するとか。経済がガクンと冷えないように工夫をしながら、5%、10%という消費税率の呪縛から逃れ、15%、20%を目指す。僕はそう主張したいですね。

八田:所得税について補足しますと、GDPに対する個人所得税収の比率は、OECD(経済協力開発機構)に加盟する欧米のどの先進国より、日本は低いのです。欧米の最高はデンマークの24.4%、中央値は10%、最低はポルトガルの6.8%です。それに対して、日本は、5.7%しかありません。

斎藤:つまり、所得税を増やす余地があるということですか。最近、世の中ではあまり論議されることのない考えですね。日本は諸外国に比べ消費税率は低い。しかも所得税も少ないということになると、どうやって辻つまを合わせていると整理したらよいのでしょうか。

八田:日本は、GDPに占める政府支出の割合が低いのです。

斎藤:なるほど。それでも、足りない部分は大量の国債発行で穴埋めしているということですか。

八田:そういうことです。それから、日本の消費税は、諸外国と違って、住宅にも教育にも課せられます。軽減税率もありません。したがって見かけの税率は低くても、課税ベースが広いので、その分税収の額は大きいのです。

斎藤:標準税率を比較するだけでは、負担の大きさは正確に比較できないという指摘ですね。

八田:もう一つ指摘したいのは、1989年に所得税から消費税にシフトしたことが、今日の財政危機を生んだことです。60年代から80年代に高成長を維持していた当時は、累進的な所得税中心でしたから、放っておけば、税収/GDP比率が上がっていました。当時の政策論は「どれだけ減税するか」だけでした。

 その累進構造を崩し、主な税収を消費税中心にしたがために、GDPが上がっても、税収/GDP比率があまり上がらなくなってしまいました。今の日本の消費税に頼る体質は、国会で税率を上げなきゃ税収が大きくは増えない構造であるとも言えます。