斎藤:八田先生は日本経済の状況をどのようにご覧になりますか。

八田達夫氏(以下、八田):私も経済の見通しは非常に明るいと思います。その基本的な要因は、25年間続いた不必要な金融抑制政策を取り除いたことでしょうね。小林さんも円安になったことが非常に大きなプラスになったとおっしゃいましたが、やはり金融緩和の影響が大きかったと思います。

八田達夫(はった・たつお)氏
アジア成長研究所所長、経済同友会政策分析センター所長。1966年、国際基督教大学教養学部卒業。米ジョンズ・ホプキンス大学経済学博士(Ph.D.)。ジョンズ・ホプキンス大学教授、大阪大学教授、東京大学教授、政策研究大学院大学学長などを経て現職。内閣官房国家戦略特区諮問会議議員などの政府委員も務める。著書に『電力システム改革をどう進めるか』(日本経済新聞出版社、2012年)、『ミクロ経済学 Expressway』(東洋経済新報社、2013年)など多数

 賃金が上がらないことが問題だと言われています。確かに社会保険料の負担が増え、手取りはなかなか増えない。それから、非正規労働者も正規労働者も賃金は上がっていますが、低賃金の非正規労働者の割合が増えているから全体の平均値は下がって見えます。

 ただ、これはいつまでも続くわけではありません。今後、非正規雇用者をもっと採用しようにも、人手は枯渇してきていますから、賃金の問題は良い方向にいくと思われます。

金価格と似ているビットコイン

斎藤:足元の景気も当面の見通しも悪くないということですけれど、慎重派からは、これだけの超金融緩和を実施してバブルの恐れはないのかという声があります。そこはどうご覧になりますか。

小林:非常に難しい問題ですが、僕は「弾けないバブル」の状態がもう少し続くんじゃないかなとみています。株式市況を見ていると多少気になる点があるにはせよ、バブルが急激に弾ける、そういう展開になる雰囲気はないとみています。

斎藤:弾けないけれども、風船は膨らんでいく?

小林:ええ、そうでしょうね。異次元緩和で日銀が年間80兆円の国債を買い入れています。「ステルステーパリング(密かに量的金融緩和を縮小していくこと)」と言われているように、買い入れ額を静かに50兆円にまで減らしているようですね。いずれにしても、ここ2、3年の間はバブルが破裂することはないだろうと思います。ただ、果たして、国債のほとんどを日銀が持つようなこんな緩和の状態が、長期的に持続可能なのかと気にもなりますが…。

 最近、僕が強く疑問を感じているのは、マネーとは一体何かということです。これだけお金が余ってしまって、ケイマン諸島のファンド辺りがお金をたらふく回していたり、あるいはビットコインのような仮想通貨が乱高下したりしている。一部のリフレ派、あるいは超リフレ派は「実体経済を活性化するためには架空のマネーだろうが何だろうが、いくら上げたっていいじゃないか」と、思うのかもしれませんが…。

 マネーとは何なのか、が分からなくなっているというのが現実だと思うんですよ。マネーと実体経済は、やはりパラレルに動く、並行して動く必要はないのかなと思うんですね。ビットコインのような架空のマネーが出てきてしまうと、際限もないでしょう。

斎藤:八田先生はバブルの懸念について、どのようにご覧になっていますか。

八田:ビットコインの価格について言いますと、金(ゴールド)の価格と似ていますね。適正な金の値段はどこだと言える根拠はあまりないのです。みんなが「金は値上がりするだろう」と思えば上がるし、「下がるだろう」と思えば下がる。金の価格は金の実際の有用性とは何の関係もないんですね。

斎藤:金には、例えば宝飾品などに使う実需がありますが。

八田:それと、決まる値段は全然違います。やはり、「期待」に引っ張られて価格が上がるんです。仮想通貨はこれとまったく同じ現象だと思うんですよね。要するに、みんなが値上がりを期待するから、それに応じて値段が上がる。

 実は、土地もそういう側面があります。みんなが上がるだろうと思うから上がるという面がある。最初は地代が上がるから地価も上がるが、そのうち、地代の値上がりを超えて上がることも短期間ならあるかもしれないと思って値上がりする。ところが、地代の動き以上に値上がりすると、バブルになりバブルが弾ける。ファンダメンタルズに戻るということです。

 ただ、私は、インフレ自体はそれほど悪いことだとは思っていません。予測可能なインフレならば、実体経済にあまり悪影響を及ぼさないからです。

 一方、デフレはすごく悪い。なぜかといえば企業が破産するからです。せっかく様々な偶然が重なり合って設立された「企業」という集合体が破壊されてしまうと、二度と同じように組み立てることはできません。基本的にインフレが会社を潰すことはありませんから、それはそれでそう悪くはないのです。

 1980年代から90年代初頭にかけて日本ではバブルが起こりました。実のところ問題はバブルよりも金融の引き締め方がめちゃくちゃだったことにあるんです。90年に株価が暴落してからも日銀はどんどん利上げをしていた。その後も、もう実体経済は冷えているのに、やれ不動産の総量規制だ、やれ地価の規制だと、これでもかこれでもか、と押さえつけました。