ゴルフ場運営大手のアコーディア・ゴルフが、投資ファンド、MBKパートナーズの完全子会社になり上場廃止となることを決めた。MBKはTOB(株式公開買い付け)でアコーディアの全株式を取得する。アコーディアの田代祐子社長とMBKの加笠研一郎代表取締役が日経ビジネスの取材に応じ、真意を語った。
2年がかりで実現
アコーディア・ゴルフの田代祐子社長(左)とMBKパートナーズの加笠研一郎代表取締役
「コメダ(コメダホールディングス)やUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)を成長させるなど、消費者の動向に詳しいMBKの実績を評価し、完全子会社化の提案を受け入れました」(アコーディアの田代氏)
MBKパートナーズが初めてアコーディアに投資を持ちかけたのは2014年12月。大和証券の紹介だった。様々な方法を検討し昨年2月、TOBによる100%子会社化と非上場化のスキームで提案した。
両者は今年4月から協議を加速。MBKは10月末、TOBの意向表明書を提出し、合意に至った。MBKは11月30日~2017年1月18日の間にTOBを実施。約630億円の借り入れを含む、総額1500億円弱でアコーディアの全株式を買い取る。
田代氏は米会計事務所、KPMGの出身。米GE(ゼネラル・エレクトリック)日本法人、大型リゾート施設「シーガイア」を運営するフェニックス・リゾートのCFO(最高財務責任者)を経て、2012年にアコーディアの社外取締役に就任。今年6月に社長になった。田代氏は、鎌田隆介前社長からの引き継ぎ事項の一環で、社長就任が決まった今年5月、MBKのメンバーと初めて面会。交渉を進めていった。
今回の動きの背景には、ゴルフ業界の厳しい経営環境がある。現在の主な顧客層は60~70代で、あと10年もすれば競技人口はさらに減るとされる。いわゆる「2020年問題」だ。加えて、老朽化した設備の更新も、業界の大きな課題としてのしかかる。
敵対的TOB騒動の影響で収益が悪化
アコーディアはゴルフ場のリニューアルなどテコ入れに動く
「当社は上場企業として株主の期待に応えるため、利益の多くを配当に回してきました。これでは設備更新に必要な、十分なキャッシュを振り向けることができない。資金の有効な活用を考え、非上場化を決めました」(田代氏)
アコーディアは2012年、同業大手のPGMホールディングスから経営統合の提案を受けた。アコーディアが交渉入りを拒否したため、PGMは敵対的TOBに切り替えた。アコーディアは反発し、配当を大幅に増やして他の株主の支持を取り付け、PGMにTOBを諦めさせた。
その過程で、旧村上ファンド出身者が運用する投資会社のレノがアコーディア株を買い増し、筆頭株主になった。レノは株主配分の強化と、その実現のため社外取締役の解任を要求。アコーディアはレノの要求を受け入れる形で保有するゴルフ場を売却し、自社株買いと増配を実施した。
一連の騒動の結果、本業への投資がおろそかになり、アコーディアの収益は減少が続いた。
「ゴルフはハコモノが多く、サービス維持に多額の資金が必要です。まずは設備をリニューアルしたい。運営するゴルフ場はオープンから二十数年、古い施設では約50年になります」(田代氏)
「まずは現在運営するゴルフコースのクオリティやサービスを向上させ、既存の顧客を大事にしていきたい」(MBKの加笠氏)
MBKはアコーディアに社外取締役を派遣する方針だ。アコーディアはMBKと手を携えて本業に集中。老朽化した設備をテコ入れし、再成長を図る。
コーヒーチェーン、コメダホールディングスへの投資実績があるMBK。コメダの支援においては、外部から優秀な人材を集め、需要に沿ったメニューや価格の見直しで成長を実現した(関連記事「コメダ上場、投資ファンド幹部が語る支援の内幕」)。
新規女性、3カ月以内に半分がやめる現状
「女性は、ゴルフを始めようとせっかくスクールに参加しても、残念ながら3カ月以内に半数がやめてしまいます。ゴルフの楽しさ、面白さを感じないままにやめてしまうのです」(田代氏)
アコーディアは初心者の取り込みに力を注ぐ。女性ファッション誌「GINGER」誌上で募集・結成されたゴルフ初心者の女性チームに練習場やゴルフ場を提供し、来年4月、18ホールのラウンドデビューを目指すためのサポート体制を整えた。
先でも触れたように、主要な顧客層の“大量引退”が予想される「2020年問題」を抱えたゴルフ業界の経営環境は厳しい。そこでアコーディアは、若い世代、特に女性の競技人口を増やそうとしている。
アコーディアは現在、約150のゴルフ場と、30近くのゴルフ練習場を運営する。他の企業がゴルフ場、または練習場のどちらかにほぼ特化して運営しているのとは一線を画す。コースデビューを目指す初心者、ビジター利用が中心の初中級者、会員である常連に至るまで様々なステータスの顧客を囲い込める強みを生かして再成長を目指す。
「労働人口の減少に対応し、人手をかけずに顧客が満足できるオペレーションを構築する。機械化やテクノロジーを積極的に採用する」(田代氏)
ゴルフ場はこれまで、経験豊富なスタッフのきめ細かなサービスでゴルファーの満足度を高め、顧客獲得を進めてきた。ただ、運営スタッフの確保は難しさを増す一方。そうした中で、サービスの低下を招かない範囲で、可能な部分はシステム化で代替しようとしている。例えば1枚のカードで入退場からプレー、食事の注文など全てできるシステムの構築などを思い描く。18ホールではなく、6ホールや9ホールのみ気軽にプレーできるプランなど、より手頃な価格で遊べる施策の拡充も今後の検討課題だ。
「できることはたくさんある。ゴルフ業界の枠に捉われて取り組むと、見えることが限られる。異業種がとても参考になる。ゴルフ場の買収や、海外展開も進めていきたい」(田代氏)
アコーディアは、コメダやUSJへの支援で培ったMBKのノウハウを生かして新しい取り組みにも果敢に挑戦し、ゴルフ業界での生き残りを目指す。
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