日清食品ホールディングスは12月7日、約20年ぶりに国内で工場を建設すると発表した。同社は新工場を「次世代型スマートファクトリー」と呼び、あらゆるモノがインターネットにつながるIoT技術などをフル活用し、従来より50%以上の省人化を進め、効率的に即席麺を作る。
「新工場は人手不足に対応」という声に対して、同社の安藤宏基社長は「それはあまり念頭にない」と言う。安藤社長が新工場に込めた真の狙いを語った。
「ニュースリリースでは50%以上の省人化と言ってるけど、本当は最大で7分の1くらいにできる」。
日清食品ホールディングスの安藤宏基社長は本誌にこう語った。同社は12月7日、滋賀県栗東市に総額575億円を投じて新工場を建設すると発表した。国内での新工場は約20年ぶりである。
「カップヌードル」など即席麺をつくる。フル稼働する2019年12月の生産能力は日産315万食に上り、国内最大になる。
IoT技術などをフル活用、効率化進める
同社は2016年5月に発表した中期経営計画で、2020年度に時価総額1兆円を目指すと宣言した。12月12日時点の時価総額は約6800億円で、目標までには開きがる。新工場を1つのテコにして1兆円を目指す考えだ。
同社はこの工場を「次世代型スマートファクトリー」と名付けている。あらゆるモノがインターネットにつながるIoT技術と最新設備を組み合わせ、自動化と効率化を進めて人件費などのコストを下げる。各設備をインターネットでつなぎ、中央の指令室から指示を送る。
「従来は長いラインに多くの人が張り付いて、仕分け作業などをしていた。新工場では基本的に商品は自動で作り上げ、人は点検作業などが主になる。従来の同規模の工場では700人くらいの作業員が必要だったが、新工場では30人態勢の3交代制で100人くらいで済む」と安藤社長は説明する。
「従来は何か不具合があると、ラインを止めて点検や修理をしていた。新工場では生産設備の不具合が発生する前に予知するので、計画的にラインの補修ができ、効率性が高まる」と続ける。
日清食品ホールディングスの安藤宏基社長。2020年度に時価総額1兆円を目指している。(写真:竹井俊晴)
人間についている菌が一番多い
また安全性と品質を高める意味合いも強い。
安藤社長は言う。「実は安全で完璧なものを作ろうとすると、一番のハザード(危険の原因)は人間。最も菌数が多いので、人間が生産にできるだけ携わらない方がいい」
ボタンを押したら、小麦粉が粉体混合され、麺機に落ち、麺機のローラーで薄く延ばされて、ウエーブをつけてカッティングされ、麺を蒸して乾燥して、カップに入れて包装されるというのが全自動でできる。
「僕は10歳からラーメンを触っていた。ラーメンを手で握って『今日は固過ぎるな』とか言って調整してきたが、今はもう触ることなんてできない。検査設備のランプがしょっちゅうピカピカ光って、厳密に菌の検査をしている」
日清食品は2018年8月に関西工場(仮称)を稼働させる。現在の滋賀工場から北に約350メートル離れた場所に位置する。
最も優秀な人がスマートファクトリーのエンジニアに
従来は商品の違いに応じてラインを切り替えるのに時間がかかっていた。それがIoTの活用で迅速に切り替えられるようになる。
省人化を進め、工場で人はクリエーティブで付加価値の高い仕事を担うという。
「工場での省人化は、人の仕事を奪うものではない。他に仕事はいくらでもある。これまで社内では開発に最も優秀な人材がいたが、今後はスマートファクトリーのエンジニアが一番上になるかもしれない」と安藤社長は話す。
世界展開をにらんでの国内マザー工場
20年ぶりに新工場の建設を決断した背景には、国内の需要喚起に自信を持っている側面もあるだろう。カップヌードルなどが好調で、国内の生産数量は過去最高を更新し続けている。
国内の全需も伸びている。日本即席食品工業協会によると2015年の国内生産量は前年比4%増の約56億4500万食だった。
一方で、世界展開をにらんでの国内での新工場という意味合いもありそうだ。
新工場で省力生産を実現できる意義は大きい。世界的に労働力が不足しており、労働力に頼っていると、世界展開の障害になりかねないからだ。
「今までは労働志向型で、労働力が安い国では一番シンプルな機械を入れて、多くの人を投入していた。どの国でも人件費が上がってくれば、(労働志向型ではなく)、日本のスマートファクトリーの設備を導入することで品質と効率性を両立できる。海外で設備を導入しないのであれば、日本で生産した即席麺は輸出産品になるかもしれない」
安全で高品質の即席めんを基本的に全自動で作れるようになれば、各地の需要に応じて工場を建設し、迅速に生産品目を変えられることもできる。
国内の新工場は、国内需要に応えるためだけでなく、世界展開を進めていくうえでの意味が大きい。「ITやロボティクスを徹底的に活用することで日本の産業は強くなる。新工場は日本の産業の競争力を高める原点になる」と安藤社長は語った。
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