産業革新投資機構(JIC)は10日、田中正明社長ら民間出身の取締役9人が辞任することを発表した。同機構は官民ファンドの1つで、役員の高額報酬問題を巡って経済産業省と対立を深めていた。田中社長は9月にJIC社長として就任したばかり。わずか2カ月余りでトップを含む大量の役員が辞任する異例の事態となった。

JICは前身である産業革新機構を改組し、今年9月に発足した。経産省は当初、田中社長に対し1人当たり最大1億円超の役員報酬案を機構側に提示、田中氏は体制強化に向けてそれを基に人選を進めた。ところが報酬が高すぎると政府内外から異論が出たために経産省は撤回。田中社長らは反発していたが、経産省との溝はこれ以上修復できないと判断した。
辞任したのは田中社長のほか、取締役会議長を務めるコマツ相談役の坂根正弘氏ら民間出身の9人。「このチームなら間違いなく素晴らしい結果を出せたはずなので、誠に残念だ」。田中社長は10日午後の会見でこう述べた。
「お金が欲しくて来たわけではない」と主張
1億円超という報酬案が一人歩きしたことに対して田中社長は「まったく事実に反している」と主張。会見では自身を例に挙げながら実際の報酬水準を説明した。基本給、短期業績報酬、成果報酬の合計からなる役員報酬のうち、1年目から4年目くらいまでは投資案件に対する成果報酬が出るとは考えにくいため、どんなに多くても基本給1500万円、短期業績報酬最大4000万円を合わせた総額5500万円であるとした。
「私を含む取締役の誰一人として、お金が欲しくてここに来たわけではない。これまで身に付けた知見、経験を差し出しこの国の将来がプラスになるのであれば、報酬がどんなに下がっても構わないという気持ちで来ている。私自身、仮に当初提示されたお金が1円だったとしてもこの仕事をやった」。田中社長は高額報酬批判に対して強く反論した。
世耕弘成経済産業相は「未確定の報酬を紙で示したという事務的失態に尽きる。非を認め、ご迷惑と混乱を招いたことをお詫びしたい」と全面的に謝罪したうえで、10日付で「JIC連絡室」を設置し、2019年春までに新経営陣を招聘するための条件整備を検討するとした。一方で官民ファンドについては「リスクマネーの供給に役割がある」と述べ、続行する方針を示した。
だが、取締役の総退陣を受けて、産業投資革新機構の活動は、事実上の休止状態となる。今回の騒動をきっかけに総額2兆円という最大の官民ファンドのあり方についても議論になりそうだ。
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