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 12月8日、フランス・パリは朝から不穏な空気に包まれていた。パリ在住者によると、いつもより人通りが少なく、街に不気味な静寂が流れていたという。マクロン仏大統領を批判するデモがあるとの情報から、市民たちが不要な外出を控えたためだろう。

 パリ北駅からシャンゼリゼ通りにタクシーで向かうと、確かにいつもより道路が空いている。だが、治安部隊の検問があり、中心部まで近づけない。地下鉄の駅も封鎖されている。シャンゼリゼ通りを迂回するように周辺を歩いていると、所々でデモ隊と治安部隊が衝突していた。

 今回のフランスのデモの特徴は、核になるリーダーや団体がいないことだ。SNS(交流サイト)などで相互にデモを呼びかけ、参加者が膨らんでいる。参加者はスマートフォンを通じて様々なデモの状況をチェック。警備を避けながらデモの場所を次々と変え、治安部隊といたちごっこを繰り返していた。

治安部隊と放水車の前で抗議する人々

 しばらくすると、大規模なデモ隊が大手百貨店、ギャラリー・ラファイエットの周辺に集まり始めた。「マクロン、辞めろ」と口々に叫びながら行進していく。断続的にフランス国歌の合唱が起きる。後方には鼓笛隊のような一団がおり、リズミカルな音楽を奏でながら、デモ隊の戦意をあおる。一方で治安部隊は車両を用いてシャンゼリゼ通りに向かう道を封鎖し、デモ隊とにらみ合う。

 それは狼煙(のろし)のようだった。デモ隊が発煙筒を燃やして拳を振り上げると、多くの人が集まってくる。その中の数人が抗議の横断幕を掲げながら前に進み、放水車の前に座って両手を挙げる。デモ隊の興奮が高まっていく。

 すると、様子を見ていた治安部隊が動き出した。隊員の1人が拡声器で警告を発すると、数秒の静寂の後に、治安部隊が大きな音でサイレンを鳴らしながら前進を始めた。座り込むデモ隊をひいてしまう寸前で横から警察が介入し、デモ隊を力ずくで引きはがす。両陣営の間にスペースができると、放水車と車両、歩行部隊が隊列を組みながら突き進み、放水が始まった。

 強烈な放水に身体ごと後ろに吹き飛ばされる人もいれば、あらかじめ用意した緑色のバリケードで放水を防ぐ人も。デモ隊からは発煙筒が、警察からは催涙弾が投げ込まれ、辺り一面は煙に包まれ混乱状態に陥った。

 記者は放水車の動きに合わせて、ほぼ真横からその様子を撮影していたが、放水車が突然、真横にも放水を始め、催涙弾を投げ込んできた。ずぶぬれになった上に、催涙ガスを吸ったため咳が止まらず、目に痛みが走り涙が流れる。薄眼を開け、上着の袖で口を覆いながら、横の路地を走ってその場から退散した。

治安部隊は放水と催涙弾でデモ隊に迫った