(写真=PIXTA)
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 上記の4原則のリストはあくまでも企業サイドから見て、雇用形態間の賃金差がなぜ合理的であり得るのかを会社サイドから説明したリストであり、不満を持つ労働者の法的リスクを回避できるというものでもない点には注意が必要である。問題の所在を認識し、それを徐々に解消していくような人事管理制度・賃金制度の改革が求められていくことになろう。

 実際問題として法対策を行おうとする企業は上記作業を人事コンサルティング会社に依頼することになろう。もっとも、単に実務に精通しているというだけでは、高度な統計分析はできず、労働経済学の理論に基づいた現状の整理もできないため、コンサルティング会社の力量が問われる。その一方で、研究者だけでは実務の知識が到底足りず、人事管理の担当者が知りたいことに答えるような分析を行うことも難しいだろう。実業界と学界の実りある協働が期待されるところである。

日本の労働市場はどのように変わっていくのか

 同一労働同一賃金法制が施行されることによって日本の労働市場はどのように変わっていくのだろうか?この問題を考えるにあたっては法改正をもたらした日本の労働市場に関する問題意識を振り返ることが有用だ。

 先に述べたように企業と労働者の間の長期的なコミットメントを前提としたと正社員とそうでない非正社員の間には賃金差が発生する。このとき、労働者の技能やモチベーションについて完全に知ることが難しい企業は、正社員のスクリーニングに対して慎重になるため、非正社員が正社員になることは容易ではないのが現実である。

 したがって、非正社員から正社員への転職機会は限定的であり、非正社員の待遇改善への貢献も限定的となる。このような状況では、労働者のキャリア初期におけるほんの少しの技能の違いが雪だるま式に膨らみ、「正社員・正職員」と非「正社員・正職員」との間に大きな待遇の格差が生まれることになる。この労働市場に二重性があるという認識こそが同一労働同一賃金原則の導入が議論されるようになったきっかけである。

 同一労働同一賃金法制が施行される影響は大きく二つに分かれると予想される。一つは「正社員・正職員」と非「正社員・正職員」の間の職務を明確に分けることで、待遇格差を合理的に説明できるようにするという方向である。もう一つはそもそも「正社員・正職員」と非「正社員・正職員」を区分して人事管理をすることをやめるという方向である。

待遇差解消の代償は何か

 後者の場合、雇用形態間の待遇差を解消するという目的は達せられるものの、結果として雇用の安定や長期的なキャリア開発といった「正社員・正職員」が享受している日本型雇用慣行のメリットは失われる。同一労働同一賃金法制の施行が、一層の分離をもたらすのか、統合をもたらすのか、各社によって対応はまちまちであろう。

 それでは日本全体で見たときの流れはどうか。それは、伝統的な日本型雇用慣行のもたらすメリットの大きさに依存している。日本型雇用のメリットを感じている企業は正社員と非正社員の職務分離をはっきりとさせることで正社員制度を守り、そのメリットを残そうとするだろう。

 一方でそれほどメリットを感じていない企業は、ごく一部のエリートに幹部候補生コースを残すことなどはするだろうが、これを機に雇用管理制度を一本化し正社員と非正社員という雇用管理の仕方をやめるということになろう。

 過去30年ほどを振り返ってみると、勤続年数の短期化、賃金カーブの平たん化、雇用の非正規化に表れているように伝統的な日本型雇用慣行はその重要性を徐々に低下させている。そのことを前提とすると同一労働同一賃金原則の導入は長期的には労働市場における統合をもたらす力としとて作用することが期待できるといえよう。

(この原稿の内容は日本労働研究雑誌2018年12月号に掲載された拙稿「雇用形態間賃金差の実証分析」をもとにしている。詳しい分析についてはそちらを参照してほしい)