(写真=PIXTA)
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 そのためにはそもそも労働者間の賃金差がなぜ生まれるのかを理論的に整理することは有用であろう。労働経済学の標準的な理論によれば、賃金格差の発生原因は以下の4つに整理される。

  1. 技能の違い―技能が異なれば生産性が異なり賃金も違う
  2. 職場環境の違い―深夜勤務など厳しい労働条件には高い賃金が支払われる
  3. インセンティブ設計の違い―労働者の技能蓄積を促し、やる気を引き出す種々の労務管理に服していると賃金が高い
  4. 労働市場における外部機会の違い―好待遇で他社に転職できる労働者は交渉力を持ち賃金が高い

 これらすべての理由が我が国の雇用形態間の賃金差を説明しうるが、特に重要と考えられるのがインセンティブ設計の違いや労働市場の摩擦の違いによって発生する賃金差である。

日本に特徴的な「身分・呼称の違い」

 わが国における雇用形態の定義にあたっては、労働時間の長短、明示的な雇用契約期間の有無、直接雇用・間接雇用の別、身分・呼称の違いによる4次元の定義があるが、最後の身分・呼称の違いという定義は我が国に特徴的なものである。これは我が国における「正社員・正職員」に対して雇用主が無期契約の下で労働者の能力開発をし、その技能に報いる賃金体系を整備してきたためである。

 このような高度な労務管理が広範に普及していることが日本の特徴である。そのため、「正社員・正職員」は勤続年数が伸びると平均賃金が上がるが、それ以外の労働者は平均賃金が上がらず、「正社員・正職員」とそれ以外の賃金差は勤続年数が伸びるに従い拡大していく。企業内のインセンティブ設計の違いによる雇用形態間賃金差の発生である。

 企業内のインセンティブ設計でカバーされない非「正社員・正職員」は、企業が技能蓄積に相応する待遇改善をしないため、他社への転職可能性を梃子にして待遇改善の交渉をしたり、転職したりすることで待遇改善を勝ち取っていかなければならない。2018年現在の好景気と人手不足の下で、短時間労働者の賃金は上昇を続けておりこのようなメカニズムが働きつつあるとはいえる。

企業に求められる説明責任

 自社の人事データを分析し、雇用形態間の賃金差を把握し、その発生原因を理論的には説明したとしよう。このような作業を行うことによって自社内の賃金構造の思わぬ特徴に気づくことができようし、説明しにくい賃金差があることに気づくかもしれない。

 また、雇用形態間の賃金差を説明したからといって、それが労働者に納得してもらえるかどうかは別問題だ。雇用形態間の賃金差をインセンティブ設計の違いに帰着させると、それぞれの労働者がなぜ異なるキャリアトラックに乗っているかも説明することが必要になろう。

転職困難な労働者に低い賃金を押し付ける恐れ

 最初に本人が選んだことだからというだけでは、長期にわたる賃金差を労働者が納得する形で説明することは難しいだろう。また、外部機会に合わせて賃金を決めるというのは言ってみれば、いやなら転職しろ、という原理であり、何らかの事情で転職が難しい労働者に低い賃金を押し付けることにもつながりかねない。

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