
また雇用形態が異なる労働者の平均賃金が異なる理由には、それぞれの雇用形態で働く労働者の学歴、年齢、会社の勤続年数が違うことなどがあるだろう。労働者の会社への貢献に見合った賃金差をつけることはガイドライン案でも認められていることであり、最終的にもこの原則は継承されるであろう。したがって各労働者の学歴、年齢、勤続年数といった情報も賃金や雇用形態と並んでデータの中に含めておく必要がある。
これらのデータの整備が終わったら、学歴・年齢・勤続年数といった属性が同じであるものの異なった雇用形態で働く労働者のそれぞれの平均賃金を計算していくことになる。具体的には多重回帰分析やマッチング推定といった統計分析の手法を用いて雇用形態間の平均的な賃金差を計算する。
「社内賃金差」を世間相場と比較する
自社内の雇用形態間賃金差を計算し終えたら、その差が世間一般で観察される賃金差とどの程度乖離しているかを比較することが有用だろう。雇用形態間の賃金差が皆無という企業は珍しいだろうから、多かれ少なかれ各企業の中では雇用形態間の賃金差が存在することになろう。そこでまずは自社の賃金差が世間一般の雇用形態間賃金差と比べてどうかを見極めることから対応を考えることが現実的だろう。
自社の賃金格差が世間相場よりも小さければよいというわけではないが、少なくとも世間相場よりも大きな賃金差があるのであれば、それには相応の説明が求められると考えるのが自然である。
ここでは参考として2016年に開催された「同一労働同一賃金の実現に向けた研究会」の中間報告で発表されている分析結果を紹介しよう(筆者はこの研究会に参加し、厚生労働省と協力して統計分析をした)。この分析で筆者は賃金構造基本統計調査の2005年から2015年までの個票を用いた。
賃金構造基本統計調査は、ランダムに選ばれた7万強の事業所の毎年6月の賃金台帳からランダムに選ばれた160万人弱の情報をターゲットにする調査で、回収率は事業所ベースで約7割である。分析の重要な変数である学歴が短時間労働者についてはわからないため、フルタイム労働者である一般労働者にサンプルを限定し学歴を制御して分析した。
もっともフルタイム労働者の中にも雇用契約期間の有無や呼称の違いがあるため、雇用形態間の賃金差を分析することは可能である。さらに60歳以降の労働者については定年の影響があり得るため分析対象外として59歳以下の常用一般労働者を基本的なサンプルとした。分析には11年分をプールした男性約680万人、女性約480万人が含まれるビッグデータを用いた。
分析対象となる賃金は所定内賃金を所定内労働時間で割った所定内時間当たり賃金である。男性と女性では根本的に賃金が労働者属性にどのように依存するかが根本的に異なるため、男性と女性を分けて分析した。
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