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2018年6月28日、参院厚労委が働き方改革関連法案を可決。雇用のあり方が問われる(写真=PIXTA)

 2018年の通常国会で成立したいわゆる「働き方関連法案」の一つの柱が同一労働同一賃金原則の法制化であった。大企業においては2020年春から雇用形態間の不合理な待遇格差の解消に向けた対応が求められることになる。

 何をもって不合理な待遇差とするのか、2016年末に厚生労働省からガイドライン案が発表されているものの、通勤手当の取り扱いなどわかりやすいものを除いて、様々な個別のケースをすべてあてはめられるほどには網羅的なものとはなっていない。

 今後、さらに労働政策審議会で細部が詰められていくことになるが、個別企業の賃金体系は個別性が高く、それらすべてをカバーして、これは問題ない、これは問題ありというチェックリストを作成することは原理的に難しいだろう。

 このような不確実な状況で各企業の人事担当者に求められるのは、自社の雇用形態間の待遇格差の実態を把握し、なぜそのような格差が発生しているのか合理的に説明できるよう準備をしておくことであろう。

 現場を無視した法律改正だなどとの批判の声も多いが、雇用形態間の賃金差が大きいのも事実で、それを解消するために成立した法律だ。今更ぼやいていても始まらないので、この機会に社内の賃金差の実態を把握し、改善すべきところは改善するという姿勢が重要であろう。そのことが法対応になり得るし、ひいては従業員の待遇への納得感を高めることにつながるだろう。

雇用形態別の賃金差の把握が必要

 各社で雇用形態別の賃金差の実態を把握しようとすれば、まずは各従業員の雇用形態と賃金さらには彼らの学歴、年齢、入社後の年数などが記録された電子情報を準備する必要がある。このデータを用いて学歴、年齢、入社後の年数などが同じである一方で、雇用形態が異なる労働者間で平均的な賃金に差があるかどうかという統計的分析を行うことになる。

 おそらくここで課題となるのが社員のデータベースの整備であろう。各社で様々な形態でデータを保有していることが考えられるが、このデータの形式を、分析できるような形に整える必要がある。労働基準法では賃金台帳を整備することが求められているため、各種労務管理データベースには賃金台帳を作成するための機能が準備されている。まずは賃金台帳形式のデータを準備するのが容易であろう。

 さらに言うとデータベースに賃金構造基本統計調査に回答するための情報を抜き出すモジュールがあれば、その形式で情報を抜き出しておくと後の分析がしやすい。

 次に様々な雇用形態を定義していく必要がある。いわゆる正規労働者と非正規労働者を分類する際に、直接雇用の労働者だけに限定しても、雇用契約期間・労働時間・呼称の別で分ける分類があり得る。雇用契約期間については有期契約と無期契約があり、労働時間に関してはフルタイムとパートタイムがある。

 呼称とは労働者が職場で正社員・正職員と呼ばれているか否かという雇用管理上の区分のことである。このように雇用形態の分類には様々な次元があるため、正規と非正規の賃金格差といっても一つの指標でとらえることは容易ではない。様々な形でいわゆる非正規労働者を定義できるため、分析に当たっては差し当たって正規・非正規という二分法ではなく契約期間・労働時間・呼称の別で考えられる組み合わせすべての雇用形態間の賃金差を計算することから始めるのが問題の所在を把握するうえでも有用だろう。

「賃金」をどう定義するか

 次に課題となるのが賃金をどのように定義するかである。ひとえに賃金といっても所定内の賃金もあるし、時間外手当を含めた賃金もある。さらには賞与をどのように取り扱うかという問題もある。まず所定内賃金で考えるか、時間外手当も含めた賃金で考えるかを検討してみよう。実際には雇用形態にかかわらず法定労働時間を超える時間に対しては同じ割増賃金を支払っているというケースが多いのではないだろうか。

 であれば、時間外手当は雇用形態によらず同じルールで支払われていることになるので考慮から外すことができる。したがって、所定内賃金に雇用形態間で差があるかを調べることになる。もっとも雇用形態が異なれば、労働時間が異なるのが一般的なので、所定内労働時間の情報を用いて時間当たりの所定内賃金額を計算する必要がある。この時間当たり所定内賃金額が雇用形態間で異ならないかを検証することが第一歩である。そのあとに賞与など特別給与を含めて分析していくことが望ましい。