英ダイソン本社の社員集会の様子

 英国の家電メーカー、ダイソン。独特の色使いとユニークな形状、高いデザイン性を評価するファンを世界中に持つ。日本での人気も高い。掃除機から始まった取り扱い製品は、空調機や照明など5種類に広がった。今年、その最新製品となるヘアドライヤーを発表した。

 業績も好調だ。2015年12月期の売上高は前期比26%増の17億ポンド(約2380億円)と過去最高を記録。営業利益に償却費を加えたEBITDAは同19%増の4億4800万ポンド(約627億円)となった。世界72カ国の市場で事業を展開しており、顧客数は6700万人を超える。

 独創的な製品は、いかにして生まれるのか。その秘密を探るため、ダイソンが開発拠点を置く英国本社を訪れた。そこで見たのは、エンジニアの創発を促す様々なシカケ。同社のユニークな職場を歩きながら、「革新を生む組織」の条件を探った。

 英ダイソンの本社があるのは、ロンドンの西に位置するブリストル市郊外のマルムズベリー。丘陵地帯にのどかな緑地が広がる、英国の伝統的な自然景観が残る町だ。ロンドン中心部からは、電車とタクシーを乗り継ぎ、2時間ほどの道程。決して立地の良い場所ではないが、受け付けロビーは早朝から取引先やダイソンの他の拠点からの訪問者でにぎわっていた。

英マルムズベリーにあるダイソン本社の建物。朝から来客が相次ぐ(写真:川上真)

 本社に到着し、敷地内にある駐車場から受け付けのあるビルに向かう。その途中で、ダイソンらしい光景を早速目にした。駐車場の一角に、無数の巨大な展示物が設置されているのだ。

ダイソン本社に設置されている戦闘機「ハリアー」(写真:川上真)

 展示しているというよりも、無造作に置かれているという方が正しい表現かもしれない。戦闘機の「ハリアー」、民間ヘリコプターの「ベル47」、自動車の「ミニ・クーパー」…。すべて模造品ではなく、実物。創業者のジェームズ・ダイソン氏の所有物だ。

 いずれも、貴重なコレクション。だが、単なる趣味で置いているわけではない。それぞれの展示物には、エンジニアが守るべき「心得」のようなものが込められている。

展示物にはすべて意味がある

 例えば、上の写真にあるハリアー。同機は「実用垂直離着陸」を、世界で初めて実現した戦闘機だ。英国で開発された。文字通り、ほぼ垂直に離着陸できるため、滑走路を必要としない。

 「ハリアーは、コンセプトの大切さを教えてくれる」

 ダイソンのエンジニア、クリス・ビンセント氏はこう言う。垂直離着陸の技術が着目されたのは1950年代。当時、欧州各国で開発競争が活発化した。機体を垂直に浮き上がらせる技術として、当時、複数のアイデアがあったという。中でも、主流だったのは、垂直に浮上するための専用エンジンを搭載する案だった。しかし、専用の浮上エンジンを搭載すると機体重量が大幅に増える。これは、戦闘機の飛行速度を低下させるデメリットをもたらす。

 速度を落とすことなく、垂直離着陸をいかに実現するか。この課題に対して、ハリアーは、飛行に使うエンジンノズルを回転させるアイデアを採用した。浮上する際に、エンジンノズルの向きを90度傾け、下に向けるのだ。

 この仕組みなら、浮上専用エンジンが不要となり、その分、機体の重さを維持できる。しかし、アイデアは机上の空論の域を出なかった。そこで、開発陣はエンジンノズルの回転に焦点を絞り、何度もプロトタイプ(試作機)を作っては検証を繰り返した。結果的に、コンセプトは証明され、最終的に実機の開発につながった。

 「革新的な製品には、必ず画期的なコンセプトがある。そこには、興味深いストーリーがあり、人に話さずにはいられない」とビンセント氏は言う。ハリアーは、その貴重な教材というわけだ。