仏保守派の大統領候補と決まったフランソワ・フィヨン氏(写真:ロイター/アフロ)
仏保守派の大統領候補と決まったフランソワ・フィヨン氏(写真:ロイター/アフロ)

 11月27日、フランス保守派「共和党LR」の大統領候補がフランソワ・フィヨン氏に決まった。同氏はニコラ・サルコジ前大統領のかつての盟友で、サルコジ政権でずっと首相を務めた。フィヨン氏は決選投票で68%の票を獲得し、同党の大物であるジュペ氏に大差をつけた。アラン・ジュペ氏はシラク政権の首相で、サルコジ時代は国防相・外相を務めた。

 フィヨン氏は「完全な勝利、説得による勝利」と自我自賛した。ジュペ氏は開票から1時間後、フィヨン氏に対して早々にエールを送り、「フィヨン氏が(大統領選挙で)幸運を得られるよう期待する」と述べた。

 フィヨン氏が掲げる諸政策は、保守リベラル派の代表をなすものである。同氏は政治的・信条的に敬虔なカトリックで、ドゴール主義を標榜する。ドゴールは第二次大戦中、ナチスからの解放を勝ち得た保守派の軍人政治家。極右勢力とも組んだこともあるほどナショナリスティックな価値観をもち、「偉大なフランス」を主張し続けた。フィヨン氏は自らをドゴール主義者と言明してはばからない。

 それはフィヨンが掲げる社会政策に明瞭に表れる。フランスでは社会党政権が同性愛結婚を認めたが、フィヨンは性的倫理観は保守的だ。女性同士カップルの人工授精や、ホモセクシャルなカップルの養子縁組、そして代理出産などに反対する。予備選第1回の投票後、ジュペ陣営が「フィヨン氏は避妊を拒否している」と攻撃する一幕があったが、フィヨン氏は「自著の中で避妊を肯定している」と言明して反撃した。

 フィヨン氏は多文化主義にも否定的で、フランス国民としてのアイデンティティを強調する。「私たちの基準、価値、形を維持しましょう」と語り、移民や外国人と本来のフランス人を識別するよう暗に喚起した。フランスの伝統的な説話を学校教育に取り入れることなども提案する。同氏の主張は伝統主義者のそれとも言える。

 他方で、その経済政策は保守リベラリズムの典型である。サッチャー主義に基づく緊縮財政による「小さな政府」を志向する。具体的には公務員50万人削減、法人税減税、間接税2%引き上げ、5年間で1000億ユーロの財政支出削減、週35時間労働の延長、富裕税の廃止などを主張している。
   現政権で首相を務める社会党のマヌエル・ヴァルス氏は、フィヨンの政策を「ウルトラ・リベラリズムは不必要だ」と批判する。ヴァルス氏は、人気低迷に悩むフランソワ・オランド大統領が立候補しない場合には自分が立候補すると意気込んでいる。

予想に反してフィヨン氏が健闘

 世論調査では、20日に実施された第1回予備投票まで、ジュペ氏が首位を走っていた。同氏をサルコジ前大統領が追い、両者が決選投票に進むと見られていた。

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