全5740文字

「日本人は恩知らずか?」などの報道も

 ゴーン氏の逮捕から時間がたち、欧州では日増しに日産の経営体質に疑問を呈す報道が増えている。フランスメディアは「日本人は恩知らずか?」「日産によるクーデターとの見方が広がる」など、日産を非難する内容の記事を掲載している。

 日産とルノーの力関係は、資本上でははっきりしている。ルノーは日産に43.4%を出資し議決権を持つ。それに対して日産のルノーへの出資は15%にとどまり、議決権を持たない。表向きは対等の関係と言いながら、日産とルノー、三菱自動車の3社連合のトップは、ルノーCEOが務めるなど、実質的にルノーの支配力が強い。

 一方、株価や収益力で比べれば日産がルノーを上回っている。この関係を見直すことは日産の経営の積年の課題だった。

 ルノーの筆頭株主であるフランス政府にとって、雇用面などから自動車は非常に重要な産業である。ルノーと日産の経営統合を画策しており、ゴーン氏もそれを進めようとしていたとの報道がある。そうなれば日産の経営に対するルノーの支配力が高まることから、日産側が反発してきたと見られている。その最中に日産の内部告発でゴーン氏が逮捕され、会長を解任されたため、両社の提携関係はフランス政府を巻き込んだ国際問題に発展している。

 11月22日に世耕弘成経済産業相は、フランスのルメール経済・財務相と会談し、「日産とルノーの連合が協力関係を維持する意思を両国政府が強く支持することを再確認した」との共同声明を出した。

 表向きは現状の提携関係を容認しているように映るが、実際のニュアンスは少し違った。世耕経済産業相はこうも述べた。「今後のアライアンスのあり方については、関係者が合意、納得のうえで進めることが重要だと思っている」。この発言は、提携の見直しに含みを持たせたと捉えることもできる。互いにとって重要な自動車産業を巡って、両国の関係もギクシャクしてきた。

7月にはパリのステーションFで日仏スタートアップ協力の記念式典が開催された

 最近まで日仏の政治関係は良好に見えた。今年は日仏交流160周年を記念して、様々なイベントが開催されている。 

 7月には幻の安倍晋三首相の訪問もあった。日本博「ジャポニスム2018」の開会式や日仏スタートアップ協力の記念式典に参加する予定だったが、豪雨対策を優先して直前で辞退した。パリのスタートアップ拠点「ステーションF」で開催されたスタートアップ協力の記念式典では、日仏を代表するスタートアップがプレゼンと交流を行い、友好ムードが漂っていた。経済産業省の担当者は、「フランスとは比較的、大企業が強いという産業構造が似ており、自由貿易の促進やスタートアップの育成など同じ価値観を共有できる」と語っていた。

 しかし、雇用創出の宝である自動車メーカーの処遇となれば、背に腹は替えられないということだろう。

 フランス政府は日産にフランス国内での生産を要請することもあったという。ブレグジットを巡り、英国の生産分の移転を手ぐすね引いて待っているのかもしれない。既にフランス政府は金融機関に様々な便益を用意し、ロンドンからパリに金融機関の誘致を迫る動きがある。支持率が低迷しているマクロン大統領にとって、産業を誘致し、雇用を生み出すことは重要課題だ。

 29日、日産とルノー、三菱自動車の3社連合のトップがオランダにある統括会社「ルノー日産B・V」で会合を開く。日本の2社のトップはテレビ会議で参加し、現地にはルノーの暫定トップであるティエリー・ボロレ最高執行責任者(COO)が赴く見込みだ。

 ゴーン氏の解任とブレグジットという難題に揺れる日産を巡って、日欧の企業間だけでなく、政府を巻き込み水面下で激しい綱引きをすることになりそうだ。

10月のパリモーターショーで講演するルノーのティエリー・ボロレCOO。背後に3社アライアンスの文字が映る瞬間もあった