12月に「ノーディール宣言」もあり得る
菅野:保守党の党則では、一般議員48名が不信任の意を示した書簡を1922年委員会(議員委員会)に提出すると、党首への不信任投票が実施されます。
強硬離脱派は離脱協定を全て破棄し、党首選を実施すべきであると主張しています。前々回の党首選は約2カ月かかりましたが、前回(2016年)は2週間で実施できています。それでもやはり時間がないことがネックとなります。
多くの閣僚が辞任しています。辞任する政治家は無責任ではないでしょうか。
菅野:これは政治家としての信条を曲げないという点では、評価していいのではないでしょうか。英国では、次の選挙をにらんで、離脱派から残留派に転ずる政治家も少なからず存在します。ただ、だからといって、合意なき離脱が良いわけではありませんが。

これだけメイ首相がEUに譲歩せざるを得なかった背景をどのように見ていますか。
菅野:やはり時間がないからでしょう。本来はギリギリまで交渉することもできたのですが、18年6月の離脱法案で19年1月末までに英議会で離脱協定を巡る合意案が承認される必要が生じました。実質的に離脱の2カ月前が交渉期限になってしまいました。
欧州は12月中旬くらいからクリスマス休みモードになりますので、2018年12月13日、14日のEUサミットが最後の話し合いの期限になります。現段階の予想では12月7日~11日の間に英議会での採決を終え、EUサミットで合意内容を最終確認すると目されています。ただ、英議会で承認されなければ、EUサミットでノーディール(合意なし離脱)宣言をする可能性もありえます。
英国が合意条件なしにEUから放り出され、無秩序に離脱する可能性が高まっているということですね。
菅野:はい。今の離脱協定案では議会は通らないでしょう。今からEUと交渉して新しい案を作るのは時間的に不可能です。ということは、合意なき離脱になる確率が非常に高まっています。
英国に拠点を置く企業は合意なき離脱による混乱が襲ってくることに備える必要があります。EU加盟国からの財に対し通関にかかる時間が長くなり、ドーバーで通関待ちをする長距離トラックの長蛇の列ができる可能性があります。特に製造業に関わる企業はサプライチェーンの見直しを急ぎ、真剣に緊急対策を検討するべきです。
菅野さんは単一市場から外れると同時に、EUの影響を最小限に抑えた「ハードブレグジット」であれば、ビジネスチャンスがあると指摘しています。
菅野:今はEUの原産地規則に縛られ、EU内で多くの部品を調達しなければいけない点が生産コストを引き上げています。
自動車部品などの原産地規則などが外れて、EU域外からコストの安い部品を輸入できれば、EU離脱のマイナス影響を補い、コスト競争力を手に入れられる可能性はあります。
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