4 日本社会が抱える「時限爆弾」

全世代が背負う重荷

 ここまで、現役世代から、高齢者、そして子どもとすべての世代に横たわる「健康格差」の実態について見てきた。こうした現場から感じ取れることは、人生それぞれの段階に「健康格差」の要因が忍び寄っていることである。さらに、高齢者はもとより、これまで医療とは縁遠かった現役世代や子どもたちにまで及ぶ「健康格差」の問題が近い将来、巨大な負のうねりとなって、日本の医療や福祉といった社会保障に押し寄せてくる可能性があるということも同時に感じ取っていただけるだろう。

逼迫する社会保障費

 すでに、日本の医療介護行政は、急速な高齢化で財政的に逼迫した状態にある。厚生労働省の発表によると、平成25年度の国民医療費(保険料や自己負担分の金額、税金の総計)は、史上初めて、40兆円を超えた。そして、その半分以上の23.1兆円は65歳以上の高齢者のために使われている。さらにいうと、75歳以上の後期高齢者だけで、3分の1以上の医療費が使われている。(平成25年度国民医療費の概況 厚生労働省)

 これは単に「高齢者の人数が多いから」というだけの話ではない。1人当たりの医療費で見ても高齢者の医療費は他の年代に比べて著しく高い。日本人全体の平均で見ると、国民1人当たり、年間での医療費は31万円ほどだが、年代別の平均値でこれを上回るのは、65歳以上の高齢者のみである。15~44歳では、全体平均のわずか3分の1ほどである約11万円しか医療費が必要ないのに、75歳以上ではその8倍以上、90万円もの医療費が必要になっている。(平成25年度国民医療費の概況 厚生労働省)

 こうした高齢者に偏りがちと言われる医療費の問題をどうするかという社会的な状況にくわえて、これまで健康であったはずの現役世代や子どもたちの世代にまで医療の負担が増える事態となれば、社会保障の破綻は避けられない。

 全国14万人の高齢者を対象とする大規模調査プロジェクト「JAGES」(Japan Gerontological Evaluation Study 日本老年学的評価研究)の代表で「健康格差」研究の第一人者である近藤克則・千葉大学教授は、こう警告を発する。

「貧困、非正規労働、単身者の増加に伴い、健康面で大きなリスクを抱えている人たちが出ている現状がある。もし、このままの状態を放置すれば、『健康格差』はいっそう拡大し、将来健康を損なう人が続出する可能性があります。例えば、生活保護の受給でいうと、開始理由のほとんどは病気がきっかけです。健康状態が悪い人たちが増え続ければ、20年も経てば、健康を失った若い世代の生活保護率が急増し、社会問題として火を噴くでしょう。そうなれば、無年金で仕事もできず、住まいもない人が100万人単位、1000万人単位で増える可能性もあります。

『健康格差』は生涯を通じて徐々に蓄積されていくので、問題が顕在化してから対策に取り組むのでは取り返しがつきません。予防するためには早く対策を打つしかありません。この問題に、まだ気がついていない人が多いだけで、日本社会は時限爆弾を抱えているのです」

 すべての世代に忍び寄る「健康格差」。問題がこれまで以上に顕在化する前に、対処が必要だということをおわかりいただけただろうか。



健康格差 あなたの寿命は社会が決める (講談社現代新書)
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