ティファニーは「指輪」を売っているのではない
ティファニ― インタ―ナショナル シニア・ヴァイスプレジデント フィリップ・ガルティエ氏に聞く
百貨店を中心に「モノ」消費が落ちる現在。宝飾品を中心としたジュエリ―も例外ではない。米宝飾品大手のティファニ―の2016年5~7月期決算は、売上高が前年同期比6%減の9億3100万ドル(約1001億円)、純利益は同1%増の1億500万ドル(約113億円)だった。日本の売上高は13%増だったが、為替変動の影響を除くと3%減となり、頼みの日本市場も低調している。
今後のティファニ―の戦略を同社のインタ―ナショナル シニア・ヴァイスプレジデント フィリップ・ガルティエ氏に聞いた。(聞き手:染原 睦美)
ティファニ―のインタ―ナショナル シニア・ヴァイスプレジデント フィリップ・ガルティエ氏(撮影:大槻 純一、以下同)
ミレニアル世代でオ―プンハ―トなどが再度人気になっている
ティファニ―も含め、世界的に宝飾品市場が低迷しています。
ガルティエ氏:全体的にラグジュアリ―市場がスロ―ダウンしていることは否めません。一方、国ごとに見てみると、今後も日本、中国、韓国は成長市場だと思っています。最近の四半期では非常に大きく伸びています。ジュエリ―はまだまだブランド化されていないものが多く、長期的にみれば伸びる余地はある。そういう意味では楽観視しています。
日本の市場の特徴は。
ガルティエ氏:北米、中国に続き大きな市場です。ティファニ―が日本に進出したのは1972年、もう40年以上前のことです。我々は日本の方がどのような思考をお持ちか、熟知しているつもりです。例えば、質が高い商品を見分ける力はずば抜けていますし、クラフトマンシップ(職人芸・気質)について非常に見る目があります。サ―ビスについても、目が肥えているので店内における接客の質も常に高めています。
オ―プンハ―トなど、過去には日本でも大きなトレンドになった商品がいくつもあります。一方で、“流行”で終わってしまったがゆえに陳腐化してしまうことによるマイナスをどのように考えていますか。
ガルティエ氏:実は、今、ミレニアル世代(1980年代生まれの世代層)に、再びオ―プンハ―トなどが人気です。デザインは変えたりせず、一方で、今の世代にあった見せ方をするよう工夫すれば、再びトレンドは作れるのです。今だと、例えば、商品のスト―リ―や背景をしっかり説明すること、商品自体が埋もれないように「存在」自体を認識してもらえるような仕掛けをすることです。我々はこれを「商品に命を与える」と呼んでいます。
特に、ミレニアル世代は、大変賢い世代です。簡単には商品を買いません。彼らが求めるのは「意味」です。物語を買うのです。例えば、指輪一つとっても、この目の前にある指輪が、デザインが、自分に何をしてくれるのか、これを身につけることによって自分はどうなれるのか、といったことを見出したいと思っているのです。
指輪やネックレスは、「おめでとう」という気持ちを表す手段や、愛情表現の一つとして存在するだけのものではなくなってきているのです。
「ラグジュアリー=手の届かないもの」になってはいけない
「オムニチャネルがリテールにおいて将来的に欠かせないことは明らかですが、テクノロジ―至上主義になるつもりはありません」
宝飾品や高価格帯のアパレル商品などは、そのマーケティングにおいてデジタルをまだ活用できていない面があります。一方、ティファニ―では「リングファインダー」など、2010年からスマートフォン向けのアプリを出すなど、積極的にデジタルを活用しているように見えます。
ガルティエ氏:すべての世代に共通しているのは、デジタルテクノロジ―に対して非常に敏感になってきているということです。昔のように手の届かない“ラグジュアリ―ブランド”ではなく、ブランドが近い存在にならないといけない。インタ―ネットが当然の世界になってきたときに、企業と消費者の関係は、カテゴリ―に関係なく、どんどん近づいていっているのです。
我々の顧客も、お店に来る前にオンラインで商品を見ているという方が多くいます。商品を購入する決断に、インタ―ネットの情報がかなり影響を与えているのは火を見るより明らかです。
そうなったときに、オンラインでお客様に対して最大限の体験をしてもらうことは非常に重要です。オムニチャネルがリテールにおいて将来的に欠かせないことは明らかで、躊躇している時間はありません。
弊社では「デジタルセントラルチ―ム」を立ち上げ、オンラインを巻き込んだ購買体験というものを組織的に根本から考え直しています。ティファニ―はいつの時代も顧客とつながっていることをよしとする会社です。その意味で、販売経路の優劣はなく、お客様とつながれるポイントがあるならば、それは積極的に活用していくべきという考えです。
オンライン施策は、今のところ成功していると見ていいのでしょうか。
ガルティエ氏:成功はしていますが、長旅になると思っています。これは、他社とのレ―スでもありません。自社の製品やお客様のことを真剣に考え、自分たちにとって正しいことをやるだけです。テクノロジ―至上主義になるつもりはありません。テクノロジ―を使う前提ではなく、いかにお客様との接点を増やすかという側面で、適材適所で最大限使っていく、という考えなのです。
弊社のお客様でいえば、最終的な購買決定をしたお客様の8~9割が、店舗で一度はその製品を見て、触ったという結果も出ています。常に新しいビジネスモデルを導入する姿勢は持ちながら、デジタルを使うこと自体が前提にならないようにしています。
今後、ティファニ―を含め、宝飾品を扱う企業に求められるのはどういったことなのでしょうか。
ガルティエ氏:ブランドとしてのポジションを上げていく、ということでしょうか。手の届くジュエリ―から、クラフトマンシップを基本としたユニ―クなもの、最高級品、といった多様性を担保しながら、ブランドとしての総合力を上げていきます。
他のブランドは、買収などを経てコングロマリッド化を進める傾向がありますが、ティファニーは単独ブランドして生き残っています。
ガルティエ氏:単独ブランドであることは、何かを決断する際に、大変メリットが大きいことだと思っています。規模は時としてパワ―を発揮しますが、どれくらい迅速にことに当たれるかということは非常に大事です。こと、今のようにスピ―ディ―に市場や顧客が変わっていく時代は、何かを決断するのは早ければ早い方がいい。
今、ティファニ―に足りないもの、今後注力したいものはなんですか。
ガルティエ氏:時計と貴金属以外のアクセサリ―ですね。ジュエリ―は従来通り注力しますが、時計などはまだ弱い部分でもありますし、競合が多く難しい市場でもあります。もっとも、我々には元々のブランドバリュ―がありますし、今後もっとその価値を高められれば、まだ成長できると信じています。
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