だが、TPPからの脱退を掲げたトランプ氏の大統領就任が決まり、TPPの発効の見通しは立っていない。このまま棚ざらしが続くか、米国の離脱が現実になる場合は、米が不参加で中国が主導するRCEP(東アジア地域包括的経済連携)がTPPに代わってアジア太平洋地域での貿易体制の主役に躍り出る可能性が大きくなる。

 RCEP関係国の交渉状況からすると、TPPより関税の撤廃・削減や知的財産権、投資の円滑化などに向けたルールが低水準にとどまる公算が大きい。

TPP頓挫なら恩恵を受けるのは中国

 そうした事態になれば、企業のグローバル展開の阻害要因になるだけでなく、TPPを成長戦略の柱に掲げ、TPPという「黒船」をテコに国内の構造改革を推進しようという安倍政権のシナリオは打撃を受ける。

 さらに、日米主導で中国を封じ込めるための仕掛けというTPPのもう1つの狙いも雲散霧消しかねない。

 TPP参加国からは「米国抜き」の発効案も出ているが、参加12カ国の市場規模の6割を占める米への輸出増といった恩恵が無くなればTPPの魅力は一気に薄れる。参加国が懸命に積み上げた交渉結果が蒸し返され、収拾がつかなくなる恐れもある。

 米国からは日米2国間のFTA(自由貿易協定)を締結すべきとの意見も出ている。だが、みずほ総合研究所の菅原淳一主席研究員は「日本が守る立場の農産物についてTPPより厳しい自由化要求を突き付けられることが予想されるなど、TPP並みの条件で妥結するのは困難になるはずだ」と指摘する。

 日本政府内ではかつての日米貿易摩擦の再来を懸念する見方も根強く、米との2国間交渉には否定的だ。このため、安倍政権はトランプ氏に再考を促し、あくまでTPP発効を目指す構えだ。

 「現状にひるんで国内手続きをやめてしまえばTPPが完全に死んでしまう」。11月19日(日本時間20日)、ペルーで開催されたTPP首脳会合。安倍首相はこう指摘し、「各国の取り組みにより米国でもTPPの意義の理解が進むことを期待している」と強調した。

 米議会の諮問機関の報告によると、TPPが発効せずにRCEPが発効すると、輸出増などで中国に880億ドルの経済効果をもたらす。逆にTPPが発効してRCEPが発効しない場合、中国は220億ドルの損失を被るという。

 安倍政権はこうした試算なども活用しながら、TPPが米国経済や雇用にプラスに作用することなどをトランプ氏側に粘り強く説明していく方針だ。

 また、欧州連合(EU)とのEPA(経済連携協定)の年内の大筋合意に向けた交渉に注力する。TPPの停滞や英国のEUからの離脱決定など世界各国が保護主義に走るドミノ現象を食い止めるため日本が自由貿易の旗振り役を担う姿勢をアピールするとともに、日EUの交渉合意をテコに、トランプ氏側に翻意を促したい考えだ。

 来年はトランプ氏の大統領就任、英国のEU離脱通告、フランス大統領選、ドイツの連邦議会選など欧米は相次いで「政治の季節」を迎える。世界的に不確実性が増す中、安倍首相の外交手腕が問われる場面が続きそうだ。