関係者によると、安倍首相は会談で日米同盟を基軸とする外交・安全保障に関する基本的な考え方を説明。TPP(環太平洋経済連携協定)を念頭に自由貿易の推進が米国の利益につながることなども指摘しながら、その重要性をトランプ氏に語ったという。

トランプ氏は「人の話を聴くタイプ」

 これに対し、トランプ氏は落ち着いた態度で聞き役に回ることが多かったという。安倍首相は会談後、関係者に「(攻撃的な言動の)選挙中の彼とは別人だった」との感想も漏らしている。

 安倍首相にとっては、実務的な会話が多く、とっつきにくい印象があるオバマ氏より、時折ジョークも交えて和やかな雰囲気を演出するトランプ氏のほうが会話が弾みやすかったようだ。

 大統領選でトランプ氏は「米国第1」を掲げ、日米安全保障条約を批判して在日米軍の駐留経費の日本側の全額負担を提唱。経済政策では保護貿易主義の立場を鮮明にし、TPPからの撤退などを訴えていた。

 そうした過激な言動から危うさが先行するトランプ氏だが、安倍首相は当選前の陣営幹部との接触などを通じ、「ビジネス界出身のトランプ氏は現実的な対応ができる人だ」との情報に接していた。

 また、自民党総裁任期が「連続3期9年」に延長されることが決まり、安倍首相が長期安定政権を担う可能性があるとの政治的メッセージが事前にトランプ氏側に伝わったことも大きかったとみられる。

 トランプ氏は「強いリーダー」好きとされ、政府関係者は「先進国で有数の安定基盤を誇る安倍首相をトランプ氏が高く評価している様子が伝わってきた」と指摘する。

 次期政権の方針が固まる前にトランプ氏との信頼関係構築への足掛かりを作ることを目指した安倍首相。一方、国内外の懸念を和らげ、イメージ改善につなげたいトランプ氏。初会談が双方にとって有益な場となったのは間違いない。

 世界に日米関係の堅持をアピールできたとはいえ、先行きは決して楽観視できない。公約の軌道修正を図るなどリアリストぶりを示すトランプ氏だが、TPPからの離脱や日米同盟関係の在り方などに関する持論にこだわれば、日本や関係国への影響は甚大だ。

 円安・株高の「トランプ相場」の活況が続いているが、経済面で安倍政権が最も警戒しているのがTPPの行き詰まりであり、保護貿易主義の連鎖だ。

 TPPにはアジア太平洋地域を舞台に高い水準の貿易・投資自由化のルールを日米主導で作り、それを土台にアジア太平洋経済協力会議(APEC)参加国を軸とするFTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)という巨大貿易圏につなげる狙いがあった。