観光列車は、旅行会社にとっても集客の目玉となる。ななつ星in九州の成功を見ても分かるように、富裕層やシニア層を中心に、プレミアムな旅行を求めるニーズは高くなっている。また、水戸岡氏が、「列車の旅は、家族みんながゆっくり楽しめる。母親は子どもと向き合えるし、子どもは母親を独り占めできる」と強調するように、今回の列車はファミリー層の潜在ニーズも掘り起こせそうだ。

東急電鉄創業者の五島慶太氏が愛した伊豆

 今回、東急電鉄と伊豆急が、伊豆を走るリゾート列車を走らせる理由は何か。そこには、観光地としての伊豆を活性化したいという思いがある。伊豆は東急電鉄の創業者である五島慶太氏の思い入れが強かった地域だ。存命中には叶わなかったが、伊豆に鉄道を敷く構想を抱いていた。

 下田までの鉄道が敷かれると、観光地としての伊豆ブームが到来した。伊豆急行は伊豆高原などの別荘地を分譲し、観光客を目当てにしたホテルやレストラン、ロープウェイなどの事業を拡大した。1980年代には、バブル経済の波に乗って旅行ブームが到来。85年には、豪華な観光列車「リゾート21」を走らせた。

 しかし、現在の伊豆にはかつての勢いがない。バブルの崩壊に加えて、周辺の群発地震が観光には打撃となった。そのため、1991年度には年間6000万人を超えていた伊豆地域の観光交流客数は、2015年度には4500万人となっている。また、別荘地には空き家が散見され、沿線人口が減少して高齢者向けの介護施設が目立つようになった。

東京急行電鉄の野本弘文社長。会見の冒頭、創業者である五島慶太氏の伊豆への思いと、同社が伊豆の再生を手掛ける必要性を語った

 こうした中で、伊豆急行や東急電鉄は、ここ数年、地域活性化として駅構内を使ったイベントを実施したり、ユニークな駅長のキャラクターを作って、情報を発信したりしてきた。新規事業としてオリーブの木を植えて、オリーブの加工や商品化を目指している。だが、集客の大きな起爆剤になるものはなかった。そこで2年ほど前から観光列車の構想を進め、鉄道デザインで定評のある水戸岡氏に依頼した。

 今回の列車にかける総工費などは非公表だが、野本社長は「ビル1棟建つ分くらい。列車で採算を取ろうというのではなく、長い期間をかけてとんとんにしていければいい」と話す。