ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、ドナルド・トランプ氏が米大統領に選出されたことを受けて、日経ビジネスのインタビューに応じ、「最悪の結果になった」と語った。1カ月前の取材でも、移民や自由貿易を敵視するトランプ氏の政策によって「世界経済がめちゃくちゃになる」と警戒していた。

 その懸念が現実のものになり、日本の政治家、経営者、識者の中には、トランプ次期大統領が現実路線に転換することに期待する機運が高まっているが、柳井氏は「トランプに迎合すべきではない」と主張する。欧州も含めて、世界的に保護主義が勢いを増しているが、日本は豊かさを維持するためにも、外国の企業や人材を広く受け入れるべきだと提言。トランプ大統領誕生の背景の一つである所得格差が広がり過ぎないように、日本でも最低賃金を1200円程度まで、引き上げるべきだと話した。

(聞き手は鈴木哲也)

柳井 正(やない・ただし)
1971年早稲田大学政治経済学部を卒業し、ジャスコ(現・イオン)に入社。72年、実家の小郡商事(現・ファーストリテイリング)に転じ、84年から社長。会長就任などを経て、2005年から現職。同年、ニュージャージー州の郊外型モールに、ユニクロの米国1号店を開業したが撤退。翌2006年にニューヨーク・ソーホー地区の目抜き通りに大型店を開業し、再進出した。山口県出身、67歳。(写真=的野 弘路)

10月中旬のインタビューでは、仮にトランプ候補が当選した場合、「完全に自己宣伝の人であり、大統領にもっともふさわしくない人が、大統領になるということです」と、言い切っていました。日米の専門家などの大方の予想を覆して、当選しました。

柳井:最悪の結果です。当選したとたん、彼に迎合するような論調になる人はだめですね。経営者だったら、まだ事情は分かるけど、例えば、ジャーナリズムの世界などは、批判するべきところは批判しないといけないと思う。そうでないと米国からみれば、日本はトランプ氏を容認したかのように思われる。トランプ氏の方法でいいのだと思われるのは、よくない。

 なにも日本はトランプ氏とけんかする必要はない。トランプ氏も上手で、当選後の演説は、選挙中に話していたこととは違うイメージだったけれど、あれは言葉だけです。だから、意思決定するときには、本当に気をつけないといけない。共和党の良識派の人がもっと力を付けて、トランプ大統領が良識派の意見に従って行動・発言するようにならないと、世界にとって悪影響を与えると思います。

壁を作る公約、メキシコに対する侮辱

ユニクロは10年ほど前に米国に進出し、今年10月末で48店を展開しています。品揃えの多くは、中国を含むアジアなど米国外から輸入した商品だと思います。トランプ氏は選挙期間中、安価な輸入品によって米国の雇用が奪われており、中国などに高い関税をかけると、激しく主張してきました。仮にそういう政策が実行されたとしても、すでに米国のアパレル工場は空洞化しており、急にユニクロが米国で生産するというのは、難しいはずです。

柳井:できるわけない。

仮に輸入品に高い関税を課して、米国製品の販売を無理に増やそうとすれば、米国で事業をする多くの小売業はかなり高い価格で消費者に売らざるを得ない。

柳井:非現実的な話だし、米政府は、国民の生活のことをもっと考えなきゃいけないじゃないですか。それからトランプ氏は大規模減税をすると言っているが、財政難の中であんなに軽率に言うべきじゃない。メキシコとの間に壁を作るというのを、当選後にも改めて言いましたね。あんな発言はこれまでなら、許されないでしょう。メキシコに対する侮辱ですよ。