フジテレビなどとの提携では、ネットフリックス側が製作費をすべて負担してきたが、撮影や編集などの実務は提携先に委ね、ネットフリックス自身は配信権を独占していた。日本の視聴者に合った作品づくりのノウハウや経験がなかったため、日本のテレビ局などに製作を完全に任せていたとみられる。

 しかし『火花』の世界的な成功で自信を深め、日本市場攻略に本腰を入れることを決断。そのパートナーとして、事業収入7000億円弱を誇る世界最大規模の公共放送、NHKを選んだ。

 NHKとのタッグでは、両者で製作費を分担。国内のテレビ放映権はNHKが、海外のネット配信権はネットフリックスがそれぞれ押さえる。番組製作ではNHKとネットフリックス側の双方がスタッフを出している。

 かつてネットフリックスとの共同製作事業に関わったことがあるプロデューサーはこう話す。「基本的にこちらの好きなように製作を任せてくれたが、出来上がった映像を見て、『なぜこんな演出になったのか』と細かな質問を投げかけられた。日本人の嗜好を把握しようとしていたのではないか」。

NHKは変わるのか

 一方、NHKの今後を占ううえでも、今回のタッグの意義は大きい。

 放送法では現在、「放送を受信することのできる受信設備を設置した者」に対し、月1260円(口座引き落とし・クレジット払いの場合)のNHK受信料を支払うことが義務付けられている。

 NHKはテレビ受像機のほか、ワンセグ視聴できる携帯電話、パソコン、カーナビを「受信設備」と解釈。これらの機器の所有者と受信料支払い契約を結んできたが、iPhoneのようにワンセグ視聴できないスマートフォンは「対象外」と見なしてきた。

 受信料の徴収対象を、テレビ放送の「受信設備」に限定してきたことから、NHKは本格的なネット対応に取り組むことが難しかった。

 NHKオンデマンドはあくまで「特例措置」という扱いで、テレビ視聴者から集めた受信料を元に運営している以上、テレビ向けに番組を製作・放送することを大原則に据えてきた。ネット経由で誰でもどこでも番組を見られるようになれば、受信料負担で不公平感が生じるからだ。

 だが今、そんな状況が大きく変わりつつある。総務省は今年10月、テレビ放送と同時にネットでも番組を視聴できるようにする「ネット同時配信」を、2019年にも解禁する方針を発表。同時に、テレビを中心に据えたNHKの受信料制度改革にも乗り出す考えを明らかにした。

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