プロ経営者として知られる前カルビー会長兼CEOの松本晃氏。今年6月にRIZAPグループに移籍したが、10月1日付でCOO職を突然外れた。創業者の意向をくむ幹部と経営方針が対立しており、プロ経営者を生かし切れない日本企業の課題が浮かぶ。

 前カルビー会長兼CEO(最高経営責任者)、松本晃氏を経営陣に迎え入れたフィットネス大手、RIZAPグループが、松本氏が示す経営方針を巡って揺れている。10月1日には松本氏のCOO(最高執行責任者)職を外し、代表取締役のまま構造改革担当の“専任”に就けた。

 松本氏といえばカルビー会長に就任した2009年6月から退任までの9年間で同社の売上高を2倍近くに伸ばした実力経営者。その手腕を評価したRIZAPグループの創業者、瀬戸健社長が自ら口説き落として招いたばかりだった。だが、改革は進められず、その能力を生かし切れないままになっている。何が起きているのか。

 RIZAPグループはM&A(合併・買収)を繰り返して急成長をしてきた。関係者の話を総合すると、松本氏はM&Aをいったん停止し、収益を上げられる事業に絞り込むなど体制の再構築を主張した。これに以前からいる経営陣の一部が反発し、激しく“対立”しているという。

RIZAPグループの瀬戸健社長(左)は松本晃氏の改革力を買ったが……(写真=共同通信)
RIZAPグループの瀬戸健社長(左)は松本晃氏の改革力を買ったが……(写真=共同通信)

 同社の事業は「結果にコミット」のコマーシャルで知られるフィットネスを中心とした美容健康関連事業と、アパレル関連事業、戸建て住宅、ゲーム・CD、雑貨販売などの住関連ライフスタイル事業、ボウリング場、出版社などのエンターテインメント事業など、非常に幅広い。

 柱のフィットネス事業とのシナジー(相互作用)がどこにあるのか見えにくいほど多岐にわたるグループ企業は、上場会社で9社、非上場を含めると75社に上る(18年3月末)。売上高1362億円の企業としては非常に多いが、そのほとんどは買収で傘下に収めている。

 そこに対立の火種があった。実はそれらの中には業績が悪化し、買収価格が会社の正味資産である純資産(総資産から負債を差し引いたもの)を下回る企業が多数あった。会計上、その差額部分は「負ののれん」として認識され、RIZAPグループが採用する国際会計基準では営業利益に計上される。

 これは割安購入益と呼ばれ、同社の決算説明資料によると、営業利益に占める比率は17年3月期には58%、18年3月期で54%に達するほど。実態としてRIZAPグループは業績悪化企業を割安に買うことで利益を押し上げている状況なのである。

 RIZAPグループはこれらの企業を「コスト削減などを徹底することで再建してきた」(瀬戸社長)としており、今期予想(18年6月時点)では上場9子会社全てが営業黒字としている。

 関係者によれば、松本氏はこれに注文を付けているという。経費計上の仕方や在庫評価などをより厳密にした上で事業の将来性を判断し直す必要があるということだ。その中で将来性が低いとなれば、売却を含めて事業を再編し、グループの構造を再構築すべきというのである。

詳細は2018年11月19日号の『日経ビジネス』に掲載するほか、『日経ビジネスDigital』で11月14日午前零時に公開します。
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