20年ぶりに営業最高益を更新する見込みとなったソニー。10月末の決算発表時に通期業績の見通しを上方修正する部門が多かったが、一足早く8月時点で引き上げを発表していたのがイメージングプロダクツ&ソリューションズ、つまりカメラやビデオ、医療機器などを扱う部門だ。厳しい市場環境の中で成長を目指すデジタルカメラ事業の展望、そして「2020年に売上高2000億円」という目標を撤回して今後の戦略に注目が集まる医療事業について、これらを統括する石塚茂樹執行役が日経ビジネスなどのインタビューに応じた。

医療分野では当初「2020年にグループ売上高2000億円」としていた目標を撤回しました。ソニーとして今後、医療分野への取り組みに変化はありますか。

石塚茂樹氏(以下、石塚):吉田(憲一郎副社長)から当初目標を撤回するとの発言がありましたが、ソニーとして医療分野に対するコミットメントは一切ブレることはありません。数値目標を挙げた当時はほとんど事業を始めていない状態でした。医療機器を完成するまでにかかる時間、そして販売が伸びるまでの時間軸に対する見方がなかった。

 医療は法規制や業界のルールがあり、「製品ができたら売れる」というものではありません。医療関係者の信頼を勝ち得るまでが長く、その時間軸に対する見通しの甘さが、目標を取り下げた理由です。そこは経営陣として反省しています。しかし、ソニーとしてコミットしていく以上、医療には本腰を据え、時間がかかってもずっと継続していきます。

 次期中期計画では「10年の計」がキーワードになります。医療機器は放送局用の機材よりも、お客様つまり医療関係者の求めるスペックが相当厳しく、時間がかかります。解像度が高ければいい、というわけではないですから。ソニーの中計は3年単位ですが、医療に関しては10年単位で臨みます。短期的な売り上げ成長というよりも、中長期にわたる利益を伴った安定的なビジネスにしたいと考えており、技術の仕込みなどに時間をかけていきます。

デジタルカメラ「サイバーショット」、デジタル一眼カメラ「アルファ」と、およそ10年単位で新しい基軸となる商品が生まれてきました。ソニーにとっての医療とは、そういう位置付けになるのでしょうか?

石塚:そうです。商品に関して言えば、医療関係者がこれまで慣れ親しんだ操作性を外してはいけません。そこをしっかり押さえた上で、どうやってソニー色を出していくかが大事です。例えば、手術用顕微鏡システム「オーブアイ」はこれまで市場になかった商品です。従来は医師が顕微鏡に接眼する必要があったのが、そのまま大画面のモニターで見られるようになり、助手や看護師も一緒に手術部位を見られます。これは、デジタル一眼カメラが、ファインダーを覗かなくてもいいようになったのと同じ、電子化のメリットです。そこにソニーが培ってきたデザインや使いやすさを盛り込んでいけば、商機はあると思います。

ソニーの石塚茂樹執行役はデジタルカメラ「サイバーショット」の生みの親として知られる
ソニーの石塚茂樹執行役はデジタルカメラ「サイバーショット」の生みの親として知られる

4月に分社化して、半年以上が経過しました。この間の手ごたえと課題はどう考えていますか。

石塚:消費者向けとそうでない部門は別々の組織、カルチャーだったのですが一体化しました。これは分社化前から取り組んでいましたが、例えば「ヴェニス」というシネマカメラのフルフレームセンサーは、消費者向け商品で先駆けて使っていた技術を業務用にアップグレードしたものです。逆に、動画の技術は放送用機材でやっていたものを使っています。

 分社化すると遠心力が働くという指摘もありますが、我々の事業はイメージセンサーが重要なので、半導体を扱う会社とは今まで通りしっかりと協調しています。(犬型ロボットの)「aibo」の開発にもデジタルイメージング本部のエンジニアが多数参加し、アクチュエーターやメカトロニクスの設計に携わっています。そういう意味で、あの商品はまさに「ワンソニー」なんですね。

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