アジア各国の参加拡大でTPPを大きく育てよ

 今後はタイ、インドネシア、フィリピンなど参加を希望している国々を取り込むことによって、TPP11を拡大強化していくことが大事だ。これが今後の日本に期待される大事な役割といえる。

 TPPの目的は、アジアの成長市場の活力を取り込むためにルールを整備することにある。タイ、インドネシアなどは市場規模も大きく、多くの日本企業はASEAN(東南アジア諸国連合)全体にわたってサプライチェーンを展開している。これらの国々が参加すれば、日本企業にとって経済的実利は大きい。米国企業にとっても同様で、将来の米国復帰の大きな誘因にもなるだろう。

RCEPは「TPPの二軍」か?

 TPP11の大筋合意はRCEP〈東アジア地域包括的経済連携〉との関係も大きく影響する。

 RCEPは中国と日本の綱引きの場だ。TPPに対抗してASEAN諸国を取り込むことに注力する中国にとって、中身は二の次だ。他方で、日本は知的財産権や電子商取引などのルールづくりという中身を充実させることを重視する。

 中国は、TPPを中国包囲網と捉えている。トランプ政権のTPP脱退を一番喜んでいるのは中国であったが、今回のTPP11の大筋合意を受けて、中国はRCEPでの巻き返しに一層力を入れるだろう。逆に日本はTPP11が大筋合意したことで、RCEPのルールの中身をTPPに少しでも近いレベルにまで質を高めることを目指すことができる。

 日本としてはTPPとRCEPの間でルールのレベルの質的差をつけて、相手国の経済の発展段階に応じて使い分けていくのがよい。相手国にはそうは言えないが、いわば一軍と二軍のようなものだ。

 RCEPの中には、インドやASEANの一部の国のように、今はTPPのようなレベルの高いルールについて来られない国々もある。そうした国々に対しては日本がキャパシティービルディングといった制度整備の手助けを積極的に行うことが大事だ。

 その結果、二軍から一軍に引き上げられるメンバーを増せば、一軍を強化することにもなろう。

米国の圧力に対する“防波堤”になるのか?

 最後に、対米戦略の視点で見てみよう。

 TPP11は単に一通過点に過ぎない。あくまでも最終ゴールは「米国が参加したTPP」である。だからこそ参加国は今回合意したのだ。

 しかし、米国は他の国から言われて変わる国ではない。国内からの突き上げが必要だ。畜産業界、農業団体、製造業などは、TPP11によって米国が参加国との競争上、相対的に不利になるので黙ってはいない。

 来年秋には米国の中間選挙だ。来年に入れば、中間選挙に向けて、支持団体による議会への要求はどんどん高まっていくことが予想される。

 トランプ大統領は各国との二国間の貿易協定を強く求めて来るだろう。それは今回のベトナムでのトランプ演説でも改めて明らかになった。参加各国は米国から圧力をかけられても、TPP合意以上の譲歩はしないことで頑張り切ることが重要だ。多くの二国間交渉で多大の時間とエネルギーをかけるよりも、TPPに復帰して一挙に不利を解消する方が米国にとっても望ましいことは誰が見ても明らかだ。当然産業界からの圧力も次第に高まるだろう。

 そのためにも、日本も日米経済対話においてぶれないスタンスと覚悟が必要だ。

 米国としては早期に相対的な不利を解消したいと考えるからだろうから、日本にとって交渉の地合いが良くなるのは事実だ。しかし米国はTPP11があろうとなかろうと、TPP以上の要求をしてくるだろう。TPP11が米国からの圧力の防波堤になるかどうかは、むしろ日本の覚悟の問題だ。TPP11の大筋合意を主導した日本の対応を参加各国は注視している。

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