参加国の意見には大きな隔たりがあった中で、日本が主導して多国間の合意に持ち込めたことは画期的である。ただし、単に合意するだけでは意味がない。重要なのは、「どれだけ凍結を免れたか」だ。

 これまでは米国という大市場の存在が、参加各国を合意に向けて妥協する大きな誘因であった。米国が抜ければ当然、米国市場を前提に譲歩していた国々は凍結を要望する。凍結する項目が多ければ、TPPそのものが形骸化して意味のないものになってしまう。凍結項目をどこまで絞れるかが、まさに米国抜きでの日本の外交力を示すバロメーターである。時間との勝負の中で、当初60項目近くあったものが20項目に絞れ、しかも対中国戦略のうえでの目玉項目が凍結を避けられたのは日本の執念だろう。

凍結交渉は「仮想中国」との交渉だった?!

 TPPの戦略的な意義は、中国を念頭に置いたルールを盛り込んでいることにある。

 具体的には、国有企業の優遇やデジタル情報の自由な流通を規制することなどを禁止している。これらはいずれも中国に進出している企業が直面している深刻な問題である。

 例えば、中国では今年6月からインターネット安全法を施行して、外国企業に対して、サーバー設置の現地化を要求したり、国境を超えるデータの移転を規制したりする恐れもある。(この問題の懸念は10月20日の本稿「どうなる?トランプ訪日と日米FTA交渉」でも触れた)

 最近、ベトナムはこれをコピーしたサイバー・セキュリティ法を策定して、現在国会で審議されている。ベトナムが今回、電子商取引の条項の凍結にこだわった理由はそこにある。中国と同じく、社会主義国は治安当局が強いだけに、ベトナムの国家主席を説得しなければいけなかったようだ。

 国有企業の優遇も、中国で外資系企業が直面している大きな問題である。このような優遇を禁止する条項を凍結することにこだわっているのは、同じく国有企業ペトロナスを有するマレーシアで、未だ積み残し案件になっている。

 このような動きはベトナム、マレーシアだけではない。東南アジア全体に広がっている。だからこそ、中国流の国家資本主義がアジアに蔓延するのを阻止することが、アジアでの自由で公平な企業活動を確保するために極めて重要なのだ。そういう意味では、TPP11は中国流の国家資本主義を牽制するための「仮想中国」との交渉ともいえる。

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