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日米FTAにどう向き合うべきか

 私は決して日米FTAに積極的であるのではない。20年前、経産省で日米交渉に携わっていた頃、日本の財界の一部には日米FTA推進論者もいたが、私も含め日本政府は否定的だった。安全保障を米国に依存している日本が米国と二国間交渉に臨むと、最後は政治決着と称して、ごり押しを許すという苦汁をなめてきた歴史があるからだ。

 今日、かつてほどではないにしても、その構図を全く懸念する必要がなくなったわけではないので、できれば避けたいというのが素直な反応だろう。

 しかし、仮に米国からこのボールを投げられれば、日本は現実問題として断り切れるだろうか。無論、「対日赤字の是正」という目的自体は決して受け入れられない。また「互恵的」という結果の平等も目的とはしてはならない。これらは哲学、原則に関わるものだからだ。

 そのうえで、むしろ同時に考えなければならないのは、中国の台頭だ。これは20年前とは根本的に違う国際環境だ。そこで日本には米国の圧力をどうかわすかという発想だけでなく、戦略性が必要になっている。

米国の戦略性の欠如を日本が補え

 今のトランプ政権は残念ながら外交戦略が不在だ。本来、戦略を担うべき国務省の高官が未だに指名されておらず、その結果、単なる交渉屋であるUSTRが対外関係の前面に出てきている。日本はその米国の戦略性の欠如を補う必要があるのだ。

 今回、日米両国で合意した「インド太平洋戦略」というコンセプトもその一つだ。中国の台頭をにらんで、米国がアジアに関与する仕掛けが必要なのだ。経済関係でも中国をにらんで、日米で貿易ルール作りの主導権を握る戦略が必要だ。

 日米経済対話で日本が貿易ルールを持ち出している理由はそこにある。

 日米で質の高い貿易ルールのモデルを合意して、それをアジア太平洋のルールにしていく発想だ。その成果を日米FTAに盛り込めば、日米FTAに戦略性を持たせることができる。

 今回トランプ大統領が明示的に言及しなかったことでホッとするのではなく、大局をみなければいけない。単にこのタイミングでは言わなかっただけだと見るべきだ。

 正念場は来秋の中間選挙前の来年前半だろう。

 その時に注意しなければならないのは、米国からの要求だけを見て、圧力としかとらえない受け身の発想だ。これは残念ながらメディアを含めて長年の日本の習性としてこびりついている。

 もちろんトランプ大統領は国内向けに対日貿易赤字の是正を叫び続ける必要があるだろう。ただ、それだけに目を奪われていてはいけない。

 今や日米関係において二国間問題は20年前に比べて相対的に明らかに小さくなった。中国の台頭が背景だ。

 日米FTAと呼ぼうと呼ぶまいと、中国を念頭に置いた戦略性をいかに持たせることができるかに最大の関心を振り向けるべきだろう。