11月1日に開催された米上院情報委員会の公聴会では、ロシアによる情報操作の一端が明らかになった。

 「テキサスの心」という広告の場合、ネット上でテキサスのイスラム化を阻止するための集会を企画、FB上で告知した。一方、親イスラムの「米国イスラム教徒連合」は「イスラムの知恵を守ろう」と称する広告で同日同時刻に同じイスラム教センターに集まるよう呼びかけた。

 そして当日、双方の呼びかけに応じて参加した人々がにらみ合う事態になったが、どちらの広告もサンクトペテルブルグに本拠を置く組織が作ったものだった。「参加者は誰一人、彼らを見なかった。サンクトペテルブルグから煽っていたのであれば、ヒューストンのイベントには出席するのは難しいだろう」。委員長のリチャード・バーは皮肉を込める。

広告を自動掲載する仕組み自体に問題

 それ以外にも、ジョージア州やメリーランド州、ミズーリ州などの成人男性をターゲットに、「Black Lifes Matter(BLM:黒人の命も大切だ)」運動に対する反感を喚起させる広告が流れた。キリスト教や神に関心のある18歳以上のニュースフィードに、クリントンを支持するサタンとイエス・キリストが腕相撲している広告が流れたこともある。

 こういった政治広告の大半は、市民権や移民、宗教などのセンシティブなイシューに焦点を当てており、社会の分断を煽る目的だったのは明らかだ。また、極めて費用対効果が高かったようで、BLMに対する広告費用は5万3425ルーブル(915ドル)に過ぎないが、1万2000を超えるクリックと20万以上のインプレッション(閲覧回数)を生み出した。

 FBは当初、問題のあるアカウント数は470で1000万人以上が閲覧した可能性があると述べていたが、現在では1億2600万人に上方修正されている。FBは2018年までに、広告のチェックのために新たに1000人を採用すると語っているが、広告を自動的に掲載するという仕組み自体に問題があると見る向きも多い。

 FBをはじめとしたソーシャルメディアや動画プラットフォームが厳しい視線に晒されているのは、米国を米国たらしめている民主主義の根幹を揺さぶっているためだ。

 FBは誰もが自由にコンテンツを投稿できるオープンなプラットフォームであり、CEO(最高経営責任者)のマーク・ザッカーバーグも自由な投稿やシェアをことさら重視している。主義主張に関係なく自由な意見を交わすことのできるFBは、民主主義を支える言論の自由、表現の自由の構成要素になっている。

 ところが、そのFBがもう一つの民主主義の構成要素である選挙を汚したところに、今回の問題の複雑さと本質がある。いつの時代にもヘイトスピーチやデマがあるように、言論の自由と選挙の相克は今に始まったことではないかもしれないが、大量のコンテンツを瞬時にシェアできるようになったことで、その相克が増幅されているのは間違いない。

 これは政治広告を規制するだけでは解決し得ない問題かもしれない。

 上院では超党派の3議員がオンライン上の政治広告の開示を義務づける法案を提出した。最終的にどの程度の支持が集まるかは現段階では不明だが、米国で2億人超といわれるFBのユーザー数(全世界では20億人)を考えれば、ラジオやテレビと同様の規制を適用するのは当然のように思える。

 だが、社会の分断をあおるようなコンテンツはロシアによる政治広告だけではない。FBのニュースフィードには極右から極左まで党派性の強い投稿やニュースが定常的に流れている。その中には誤解に基づく主張、ファクトを無視した意見もある。こういったコンテンツを政治広告の規制だけでは防ぐのは無理だろう。

 「超党派の法案は重要な前進だが、有権者を急進化させようという意図を持った投稿に対応するのは、より難しい。ヘイトスピーチを規制するとして、どんな投稿がヘイトスピーチかという疑問は必ず出る」とハーバード大学ロースクール教授のヨハイ・ベンクラーは語る。

次ページ ソーシャルメディアはプラットフォームかメディアか