イベリア航空CEO「18年ぶり成田直行便の期待」
スペイン・イベリア航空、管理職半減含む経営再建で日本直行便を再就航
スペインのイベリア航空は10月中旬、成田ーマドリード線を就航した。日本とスペインを結ぶ唯一の定期直行便で、週3往復運航する。かつてイベリア航空は同路線を就航していたが、コスト増による採算割れが続き、同路線から撤退していた。
再就航の背景には、日本とスペインを往来する人々の増加がある。2015年のスペインへの日本人観光客数は前年比27%増の60万人以上だった。
それと見逃せないのが、イベリア航空の経営再建だ。2012年には多くの路線が赤字となり、経営危機に陥った。そこで翌年に最高経営責任者(CEO)に就任したルイス・ガジェコ氏がコスト管理を徹底する経営改革を断行し、就任2年目に6期連続の営業赤字から黒字に転換。その後の業績は増益基調で推移している。その姿は稲盛和夫氏の下で再建を果たした日本航空に重なる。ガジェゴCEOに話を聞いた。
イベリア航空は約18年ぶりに成田ーマドリード線を就航した(写真:北山 宏一)
約18年前に成田ーマドリード線を撤退してからの再就航になりました。どのような背景があったのでしょうか。
ルイス・ガジェゴ会長(以下ガジェゴ):撤退した時にはコスト管理がうまくいかず、不採算路線でした。収入よりコストが多い状況でした。
当社は2012年から経営改革を始め、コスト削減に努めてきました。その中で、顧客満足度を高めてきました。燃費の良い航空機を導入し、運航コストも低減しています。こうした経営努力の結果、再就航できました。
撤退した当時に比べて燃費はどれくらい改善しているのでしょうか。
ガジェゴ:以前使っていた航空機に比べ、今回導入する航空機「A330-200」は15%燃費が改善しています。また労務費も削減しました。
原油安もコスト削減に寄与しているのでしょうか。
ガジェゴ:我々は石油価格とは関係なくリストラを断行しましたが、今の原油安は確かに収益に貢献しています。
成田とマドリードの路線は、比較的ビジネス利用が少なく、旅行の利用が多いため、エコノミー席が多いと思います。これは収益向上において不利ではないですか。
ガジェゴ:今のところ我々が使う仏エアバスのA330-200型機という航空機では、ビジネスクラスは19席、エコノミークラスは269席、合計288人の席を用意しています。今の段階ではビジネスクラスは19席くらいで適切だと思っています。
今日、就航したのは特別にビジネスクラスが46席あるA340-600型機という航空機でした。ビジネス客が多ければ、こちらに切り替えるかもしれません。
日本人からすると、南米にはアメリカ経由で行くイメージがあります。イベリア航空は欧州回りを勧めていますが、どのようなメリットがあるのでしょうか。
ガジェゴ:イベリア航空は欧州と南米をつなぐリーディングカンパニーです。長い間、就航してきたので南米市場を熟知しています。少し前に、アルゼンチン向け就航70周年をお祝いしました。
南米向けには重要な役割を果たせます。マドリッドを経由すると、トランジットの手間が省けます。アメリカで必要なビザが要りませんし、安全検査が簡単に済みます。
管理職を50%削減した
2012年の経営改革が、今回の再就航にもつながっているということですが、具体的にどのような改革をしたのでしょうか。
ガジェゴ:2012年から32項目もの経営改革に取り組みました。32項目は5つの柱に分けられます。1つ目は収益構造、2つ目はブランディング戦略、3つ目はオペレーションのコスト、4つ目はメンテナンス、5つ目は企業文化です。
我々は来年90周年を迎えます。今のデジタル化された社会に、イベリア航空の現状が合っていませんでしたので、企業文化を変えました。
これらの取り組みで収益が改善した上に、顧客満足度を高めることができました。乗務員の人件費を14%削減、地上スタッフの人件費を7%削減し、生産性を向上しました。さらに調達コストを32%削減しました。
様々な改革の中で特にたいへんだったのは、どの改革でしょうか。
ガジェゴ:すべて難しかったのですが、特に組合側との合意が難しかった。生産性に応じて人件費を見直しましたが、その際にはストライキが起きて、合意するまで1年間かかりました。それが出来てから大幅なコスト削減ができました。
それから企業文化を変えることもたいへんでした。経営改革を始めてから新しいビルに本社を移転した際に、従来の仕切りのあるオフィスではなく、仕切りのないオープンスペースにし、管理職を50%削減しました。社内手続きを簡素化し、5000人のリストラを実施しました。
こうした収益改善によってイベリア航空の競争力が高まり、成田のように不採算で一度撤退した路線の再就航を実現しました。
経営破たんした日本航空の改革と共通点が多いように感じます。
ガジェゴ:航空会社のリストラは、どの国でも同じようなステップを踏むのではないでしょうか。
いずれにしても目指すところは、コストを下げて、健全なベースの上で経営をしていくことです。
JALの場合は、外部から招かれた稲盛和夫氏が経営再建の陣頭指揮を執りました。稲盛氏を知っていますか。
ガジェゴ:もちろん知っています。JALとは「ワンワールド」で緊密な関係を築いています。
フラメンコの学校が最も多い外国は日本
スペインと日本の移動客が増えているのは、どのような背景があると分析していますか。
ガジェゴ:文化的な要素が大きいのではないでしょうか。文化は大きく異なりますが、結びつきが強いと思います。
日本には驚くほどのスペイン料理店がありますし、逆に、マドリードにも日本食のレストランがたくさんあります。フラメンコは日本でも非常に人気があり、フランメンコの学校が最も多い外国は日本だと言われています。
マドリード直行便にどんな魅力を感じてほしいですか。
ガジェゴ:マドリードからは、グラナダやバレンシアなど魅力的な都市に高速鉄道でアクセスできて便利です。加えて、マドリードは、スペイン国内だけはなく、欧州各地への玄関口でもあります。さらに、南米へのコネクションがあるという利点があります。
一方、スペイン人にとってはイベリア航空は自分の家なようなものですから、安心して日本に行けるのではないでしょうか。年末までの予約はすべて埋まっています。
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