日本からの投資は近年、素材、部品、研究開発分野に広がっており、韓国の産業高度化に寄与しているため、日本企業による投資減少の影響は大きい。

 つぎに、観光への影響である。判決後、日本企業の韓国からの撤退、韓国との断交を求める投稿がネット上で増え始めた。日本国内で「嫌韓ムード」が広がれば、日本から韓国への観光客数が減少する可能性がある。中国からの観光客が本格的に回復していない状況下で、日本人観光客が減少すれば、韓国の観光業界には大きな痛手となる。ちなみに、日本の訪韓者数は今年に入り増加基調で推移し、1~9月は前年比21.9%増であった。

韓国ツートラック戦略に危機

 第3は、日韓の政府間協力の動きが停滞することである。

 文在寅政権発足後、慰安婦問題に関する日韓合意(15年12月)が「白紙化」されたのに続き、今回の判決が出たことにより、日本政府の韓国政府に対する信頼は著しく低下したと考えられる。今後関係が悪化すれば、各分野における政府間協力の動きが停滞するのは避けられないだろう。米国の保護主義の強まりや利上げなどを背景に、新興国では資金流出が始まった。韓国でも、日本との間で通貨スワップ協定を再締結して、セーフティネットを強化すべきとの意見が出ているが、その実現が遠のくことになる。

 さらに、政府間関係の悪化は民間レベルの交流にも少なからぬ影響を及ぼすであろう。文在寅政権は歴史認識問題に関して原則的な立場を採る一方、「ツートラック戦略」に基づいて、日本との間で経済協力(第4次産業革命での連携や人材交流など)を進める方針であるが、それが難しくなる。

 韓国経済に及ぶマイナスの影響は、おそらく韓国政府が想定している以上のものとなる。このような事態に陥ることを避けるためにも、韓国政府には従来の政府見解に基づいて、政府が事実上個人の賠償に応じるなど、日本企業に実害が及ばない策を講じることが求められる。

向山 英彦(むこうやま・ひでひこ)
日本総研 調査部 上席主任研究員
中央大学法学研究課博士後期過程中退。 ニューヨーク大学で修士号取得。 専門は、韓国経済分析、アジアのマクロ経済動向分析、アジアの経済統合、アジアの中小企業振興。