大法院の見解の変化と5年間の空白の理由

 今回の一連の動きには、二つの疑問が浮かぶ。一つは、大法院の見解が12年になぜ変わったのか、もう一つは、上告審で5年間審理が行われなかった理由は何かである。

 大法院の見解が変わった背景に、国民による過去の問題に対する問い直しがあったと考えられる。韓国では80年代後半に民主化が進み、情報公開を求める動きが広がるなかで、過去の日韓会談関連の外交文書が公開されるようになった。これを機に、過去の政府が不問にした問題に対する問い直しが始まり、いわゆる慰安婦問題や徴用工問題が再浮上した。こうした世論に押されるかのように、65年に形づくられた日韓の法的枠組みそのものを司法が問題にしたと考えられる。日本からすれば、「ちゃぶ台返し」である。

 他方、5年間審理が行われなかったのは、おそらく朴槿恵(パク・クネ)政権下で改善し始めた日韓関係への影響に配慮(政府から求められた可能性も)したものと推測される。しかし、その後の「ろうそく革命」による朴大統領の弾劾、文在寅政権の誕生(17年5月)によって状況が変わった。とくに歴史問題に対して原則的な立場を採る文在寅政権下で、慰安婦問題に関する日韓合意を再検証する作業が進められたことにより、大法院は日韓関係への影響に配慮する必要がなくなったと考えられる。

日韓経済関係に及ぶ3つの影響

 今回の判決を受けて、今後相次いで同様の訴訟が起こされることが予想される。日本企業が賠償に応じなければ、韓国内の資産を差し押さえられる可能性がある(その場合、日本企業が国際的な仲裁措置を求める可能性も)。

 他方、韓国政府も難しい対応を迫られる。判決後、韓国政府は司法の判断を尊重しつつも、日韓関係に否定的な影響を及ぼすことがないように取り組むと表明したが、どのような具体策を出してくるかは現時点では不明である。日本政府はそれをみて、今後の対応を決定することになる。国際司法裁判所への提訴を含めて厳しい姿勢で臨むことも予想される。

 今回の判決は今後の日韓関係、とくに経済関係にどのような影響を及ぼすのであろうか。この点に関しては、以下の3点を指摘したい。

 第1は、日韓の企業間関係への影響は限定的にとどまることである。

 日本と韓国の企業がサプライチェーンで結びついている。日本企業は韓国企業に対して、高品質な素材、基幹部品、製造装置を供給している。東レが韓国で炭素繊維を生産しているのは、生産コストの低さもあるが、グローバルな事業活動を行っている韓国企業が顧客として存在していることが大きい。

 また韓国企業も、半導体や鉄鋼製品、自動車部品を日本企業に供給している。こうしたサプライチェーンは日韓の枠を超えて、世界に広がっている。日韓企業は長年の取引を通じて信頼関係を築いているため、今回の判決がこの点でマイナスの影響を及ぼすことはないだろう。

 第2は、韓国経済にマイナスの影響が及ぶことである。

 まず、日本企業による投資が減少する。訴訟対象になる企業を中心に、韓国での投資計画の先送りや新規投資の見送りが生じるほか、韓国の法的安定性への信頼低下により、日本から韓国への新規投資が減少する可能性がある。