波乱に満ちた米大統領選も投票日まで10日を切った。民主党の大統領候補、ヒラリー・クリントン氏の私用メール問題について、米連邦捜査局(FBI)が捜査を再開するなど、直前になっても新たな動きが出てきているが、共和党の大統領候補、ドナルド・トランプ氏の歴史的な自滅もあり、選挙ウォッチャーの関心は既に大統領選と同日に行われる議会選挙、とりわけ下院選の動向に移っている。

女性に対するわいせつ発言発覚後、トランプ氏を見限り、下院選挙に注力すると述べた共和党のポール・ライアン下院議長。(写真:AP/アフロ)
女性に対するわいせつ発言発覚後、トランプ氏を見限り、下院選挙に注力すると述べた共和党のポール・ライアン下院議長。(写真:AP/アフロ)

わいせつ発言以降、共和党候補者に逆風

 まず、定数100に対して共和党が現在54議席を確保している上院の状況を整理してみよう。政治情報サイト、米リアル・クリア・ポリティクスの集計値によれば、民主党で固いと見られている議席数が47議席、共和党が46議席、どちらに転ぶか分からない選挙区が7議席と激戦になっている。だが、「(ヒラリー・)クリントン氏が勝利すれば、共和党は上院で過半数を得るために必要な4議席を失う可能性が高い」(米ユーラシアグループのジョン・リーバー米国担当ディレクター)という指摘が上がるように、専門家の多くは民主党が過半数の50議席を確保するとみている(可否同数の際は副大統領が決定票を投じるため、クリントン氏が勝利すれば50議席でOK)。

 一方、下院の方は218議席の過半数(定数は435議席)に対して、民主党が固いとみられている議席は190議席、共和党が224議席と共和党がリードしている(リアル・クリア・ポリティクス)。ただ、トランプ氏のわいせつ発言が表に出る前は共和党で確実という見方がコンセンサスだったが、わいせつ発言以降、共和党候補者に対する逆風が増している。

チェック・アンド・バランス作戦で下院選挙に注力

 もちろん、上院で40議席を確保していればフィリバスター(議事妨害)は可能だが、共和党が下院の過半数を割り込めば、クリントン政権のリベラルな政策が次々と実現することになる。そうなれば、共和党にとっては大統領選の敗北以上の悪夢である。だからこそ、わいせつ発言の後、共和党のポール・ライアン下院議長はトランプ氏を見限り、下院選挙に注力すると述べたのだ。現に、下院共和党への支持を訴えるため、民主党政権に対する「チェック・アンド・バランス」という理屈を持ち出しており、もはや大統領選は捨てている印象だ。

 今のところ、チェック・アンド・バランス作戦は奏功しているように見える。トランプ氏よりはマシだと見られているが、国務長官時代の私用メール問題やクリントン財団を巡る疑惑などもあり、クリントン氏に対する有権者の信頼度は相変わらず低い。大統領、上院、下院のすべてを民主党に委ねるのは危険と考えている有権者が少なからず存在しており、それが現在の下院選挙の予想に現れている。選挙予想に定評のあるクック・ポリティカル・レポートの最新予測では、共和党の負けは10~20議席の間。負けは負けだが、トランプ氏が新たにおかしなことをしなければ、恐らくマジョリティは確保するだろう。

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