かつて握手を交わした二人だが……(写真:代表撮影/AP/アフロ)

 サウジ政府を批判してきた著名なジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏が10月2日、トルコにあるサウジアラビア総領事館に入ったまま消息を絶った。婚約者を外に待たせたままでのことだ。

 この事件をめぐって、トルコのエルドアン大統領は「23日にありのままの真実で正義を示す」と予告。「果たして、サウジの事実上の最高実力者であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子の関与が示されるのか?」に注目が集まった。

 エルドアン大統領は10月23日、オーダーメイドのスーツに身を包み、ブルーのシャツにトルコらしい金の模様が入った美しいブルーのネクタイで颯爽と演壇に登場した。自分の姿が世界中のテレビで放映されることを十二分に意識していた。

 同大統領は情熱的に語りかけた。

 「全ての証拠が、この事件が緻密に計画され、暴力的かつ残虐な殺人だったことを示している。残忍な殺害を行なった15人の男たちはなぜイスタンブールに集まったのか? 偶発事件であるなら、なぜ遺体を引き取る業者をタイミングよく呼べたのか? なぜ法医学者を呼ぶ必要があったのか? カショギ氏の遺体は今、一体どこにあるのか? 誰が彼らに命令を下していたのか?」と。

 エルドアン大統領によると、「暗殺団」とみられる15人は3機のプライベート・ジェット機やサウジ民間機に分乗してイスタンブールに着いた。彼らは諜報機関の大佐や法医学者などサウジの国家公務員。カショギ氏が総領事館に来る前に監視カメラなどを取り外し、同氏に電話をかけて訪問時刻を確認し、氏が訪れるのを待ち受けた。

 殺害後は、カショギ氏の服を身につけメガネと付け髭でカショギ氏に似せた男が総領事館を出てリヤドに向かう飛行機に乗り込んだ。

 この男達が事件前日にベルグラードの森を訪れたと判明したことから、現在、トルコ警察がベルグラードの森を捜索している。

 しかし、エルドアン大統領はアップルウオッチが録音していたはずの音声証拠にも、そこから推察されるはずの「命令を下した者」へも言及することはなかった。

 エルドアン大統領は、カショギ氏の友人の次の証言にも触れなかった。証言によれば、カショギ氏は前の週の金曜日に総領事館を訪れたが、その時には手続きができないとされ「来週火曜日、10月2日に来るように」と言われていた。2日は、トルコのローカル職員は休日だったため一人も館にはおらず、ビザを求めてきたサウジ人は翌日くるよう追い返されていた――。つまり、この証言は、本国からチームを派遣し、殺害の計画を練る時間があったことを示しているというのに取り上げなかったわけだ。
期待外れの演説だった。

「イスラム世界をリードしていけるのはトルコ」

 トルコとサウジアラビアの関係を考えてみよう。

 同じスンニ派イスラムでも、両国はことあるごとに対立してきた。

 まずは対カタール。2017年6月、サウジを中心とする湾岸諸国とエジプトなどがカタール断交に踏み切った際、トルコはカタールを守るとして5000人の兵士を即時に派遣。食料輸入が困難になったカタールに食料輸出を申し出、今も続けており、サウジの「断交」を事実上骨抜きにしている。この断交の原因の一つとなったムスリム同胞団に対してもトルコは支持し続けている。