一方、農家でもテンサーフローが活躍できることを静岡県の小池誠氏は示した。自動車部品メーカーで制御システムの開発に携わっていた小池氏は、退職を機に両親のキュウリ栽培を手伝い始めた。母親が手作業でキュウリを選別する大変さを知り、自動化に取り組む。

 きっかけはテンサーフローのオープン化と、グーグルの囲碁プログラム「AlphaGo(アルファ碁)」の活躍を知ったこと。長さ、太さに加え、全体の形状や色艶などの質感、傷、イボなど様々な要素を加味して9等級に選別する母親の「職人芸」を、テンサーフローで学習させた。母親が選別したキュウリの写真を、等級とともに覚えさせたのだ。

テンサーフローを活用したキュウリ選別システムのデモ映像(ユーチューブより)

 この試作システムの2号機を今年8月、イベントで公開すると、テンサーフローのコミュニティで大きな反響を呼び、その話はグーグルの米本社まで轟いた。グーグルのコラード氏は言う。

 「我々の技術をそれぞれのアイデアを実現するために使ってほしいと願っていたわけですが、これだけ短期間にキュウリや唐揚げの選別といったアイデアが出てきたことに大変、感銘を受けました」

 「キュウリや唐揚げの事例でわかったように、機械学習というのはあらゆる業界で活用いただける可能性がある。企業やエンジニア、研究者に、テンサーフローの活用法をよりクリーティブに考えてもらい、世界中でAIの活用と研究が進むことがベストな世界だと思っています」

英語・日本語の翻訳にも活用

 グーグルは単にボランティアでテンサーフローを世界中のエンジニア、研究者に公開しているわけではない。グーグル自身にもメリットはある。

 まず、研究者同士のコミュニティーから有用なフィードバックを得ることができる。10月中旬、テンサーフローを活用する国内のコミュニティーの会合があり、コラード氏はここに参加。テンサーフローの進化や改善に関する様々な意見を得た。

 そうして進化したテンサーフローは、グーグルのあらゆる製品、サービスの品質向上にも活用される。数週間前、グーグルは英語と中国語間の自動翻訳について、機械学習を応用したアップデートを発表した。「言語の構造の違いから、欧米系の言語とアジア系の言語間の翻訳は非常に品質が低かったが、機械学習で改善できる。もちろん、日本語についてもできるだけ早く、改善するつもりです」(コラード氏)。

 グーグル・ブレインチームの首脳が日本のユーザー・コミュニティーの会合に出席するのは異例だが、それだけ日本での活用に期待を込めている証左でもある。コラード氏は、日本へのメッセージとして、以下の言葉を残した。

 「日本が得意とする産業、あるいは日本のエンジニアの方々が情熱を持っている分野での活用が進むことを期待しています。日本の企業やエンジニアの方々が、できるだけこの進化しつつある最新技術を使いやすくなるよう、お手伝いしていきたい」