HIV感染者の生活を劇的に改善し、失われていたかも知れない命を救った特殊塗料。実は開発したのは、塗料大手の関西ペイントだ。日本では、「アレスシックイ」という名称で2008年に発売している。自然素材として古くから用いられてきたしっくいの機能を組み込み、住宅やオフィス向けの高付加価値塗料を展開している。一度塗ると、効果は7~8年ほど持続する。高級ホテルや高級列車の車内などにも使われている。

 関西ペイントは当初、消臭やカビ防止効果をしっくい塗料の訴求点としてきたが、その後の研究によって塗料がそれ以上の効能を持つことを発見した。科学的に検証するため、2015年に長崎大学熱帯医学研究所と提携し、ウイルスやバクテリアへの効果について実験を重ねた。

 結論は関西ペイントの予想を超えるものだった。HIVのほか、エボラウイルス、鳥インフルエンザウイルスなどにも効果があることが分かったのだ。成果は昨年11月、日本ウイルス学会学術集会でも展示している。

 長崎大学との検証結果を受けて、関西ペイントはしっくい塗料の新たな販路開拓の検討を進めている。それが、アフリカを代表とする新興国への展開だ。「社会問題となっているHIVやエボラウイルスなどの感染症に対して、塗料を使った予防策を政府関係者などに提案している」と関西ペイントの赤木雄執行役員は言う。

 この計画を大きく後押ししたのが、冒頭のホスピスでの成果だった。

南アフリカ日本大使館からの依頼

 「しっくい塗料をホスピスに塗っていただけませんか」

 2015年、関西ペイントに依頼が舞い込んだ。依頼主は、南アフリカの日本大使館だった。それ以前、関西ペイントの赤木氏は同大使館の廣木重之大使にしっくい塗料の説明をしたことがあった。「塗料の効能について、大変興味を示されていた」と赤木氏は振り返る。その後、南アフリカ大使館は古くから関係があったセントフランシス・ケアセンターの改修を、ODA(政府開発援助)を通じて支援することになった。ここで、しっくい塗料を塗るというアイデアが生まれた。

 関西ペイントにとっては、実際の効果を調べるには願ってもない機会だ。申し出にすぐに応じ、実際に塗る際には関西ペイントの社員もホスピスに駆け付けた。