このように民主党による上下両院の過半数奪取はナローパスだが、共和党の牙城であるテキサス州の上院選での善戦は民主党に希望を与えている。それはベト・オルーク氏だ。国境の街、テキサス州エルパソ出身の下院議員で、上院への鞍替えを狙っている。

テキサスで民主党が上院選で勝利したのは1988年までさかのぼる。それ以来、民主党は30年間テキサスで勝利していない。しかも、オルーク氏が選挙で挑む現職は、2016年の大統領選でトランプ氏と熾烈な戦いを繰り広げたテッド・クルーズ上院議員だ。
NFL国歌斉唱問題への発言で脚光
だが、知名度に勝るクルーズ氏に対して、オルーク氏は最大9ポイント差まで広がった世論調査の支持率を3ポイント差まで縮めた(リアル・クリア・ポリティクスのデータ)。直近では再び7ポイント差となっているが、選挙区分析に定評のある独立系のクック・ポリティカル・レポートはテキサスの情勢分析を共和党有利から五分五分を変更した。
45歳の若さながら、オルーク氏はエルパソ市会議員を2期、連邦下院議員を3期務めた実力者だが、全国的には無名だった。そんな彼が全米で名を知られたのは今年8月のことだ。
タウンホール・ミーティングで有権者から「(米プロフットボール)NFLの国歌斉唱問題」について質問が上がった。非武装の黒人に対する警察官の銃撃行為に抗議するため、試合開始前の国歌斉唱時に片膝をつく選手が相次いだ。その行為が国家や退役軍人に対して無礼ではないかという質問だ。国歌斉唱時の行為についてはトランプ大統領も「愛国心がない」とたびたび攻撃している。
それに対するオルーク氏の回答は鮮やかだった。
「自身の権利のために平和裏に立ち向かう、あるいは片膝をついて抗議する以上に米国人らしい行動はないと思う」
そして、オルーク氏は公民権運動の歴史を振り返り、米国が獲得した自由は軍人が流した血だけでなく、殴られても拘束されても自らの権利を巡る戦いを止めなかった人々によって成し遂げられたものだと熱く語りかけた。それそのものがアメリカなのだ、と。
「片膝をつく行動は武装していない黒人の若者が警察によって数多く殺されている現実を知らしめるためだ。私を含め、国民の負託を受けている政治家がこの問題を解決できないことに、正義をもたらすことができないでいることに、彼らはフラストレーションを感じているんだ」
とりわけ評価を得たのは、違う意見を持つ人がいても同じアメリカ人だと主張したところだ。自分の意見があり、相手の意見がある。その違いを認めたうえで議論していく。対立意見に耳を塞ぐ今の米国にあって、オルーク氏のスタンスは当たり前だが新鮮に映った。
この時の動画はSNSを通じて瞬時に拡散した。これまでの再生回数は2000万回に達している。弁舌は立て板に水という感じではないが、ライバル候補を口汚く罵ることもなく、自分の言葉で有権者の問いに誠実に答える。オバマ前大統領とはタイプが異なるが、「オバマの再来」とリベラルが期待を寄せる気持ちも理解できる。
Powered by リゾーム?