南場:やっぱり世の中や社会に貢献していきたい。新しいテクノロジーを用いて今まで開かなかった扉を開けることで、新しいデライト、喜びを届けていきたいという理念がDeNAにはあります。しかし、口にしなくなることで忘れられている側面もあると思います。

南場:そこで、もう一度、デライト中心の組織に組み直そうということで、どんな会議でどんな議題を付議する時も、まず最初に「どういうデライトのためにやるのか」を明確にさせることにしました。例えば、スポーツ事業での横浜スタジアムの増築・改修を付議する時でも、新規事業の提案でも、幾ら投資して何年で回収しますという数字の話ではなく、事業が世の中をどうデライトするのかをまず述べる。

 当たり前のきれい事を言っていると思われるかもしれません。ですが、それに対して真摯な向き合い方をしなかったからこそ問題を起こしてしまったのです。多少「書生」っぽいかもしれませんが、全てのコミュニケーションにおいてデライトを一番最初に持ってくるということを徹底しています。

守安社長に続く次のリーダーが育っていないという指摘もあります。

南場:それは、本当に育てないといけません。かつて私に対して守安が盾突いてきたように、守安に対して物をずばずばと言う次世代のリーダーをちゃんと育てることができていなかった。でないと、私の役目がずっと続いてしまうなと。

 そこで今年7月、「ネクストボード」と呼ぶ次世代リーダー11人を集めた組織を作りました。「南場さんそこおかしいよ」「守安さん、それはやめなきゃだめだよ」と言ってくれるような、新たな視点や勇気を期待しています。

 それから、今年8月には事業部長がパッション(情熱)を語り、他部署から人材を募る「シェイクハンズ制度」という社内リクルーティング制度も設けました。誰をどうデライトしたいのかというパッションを事業部長が語らないと部門から誰もいなくなるぞ、という仕組みを作りたかったのです。既に20人以上がこの制度で異動しています。

新規事業ですが、キュレーション事業を失った今、次なる「高揚」の種はあるのでしょうか?

南場:種は社内にたくさんあります。何か一つ、というよりも、それぞれの事業部で高揚の種を見つけられている状態なのではないかなと。例えばゲーム事業における任天堂さんとの協業しかり、自動運転技術を用いた移動サービスや、AIを活用したタクシー配車システムしかり。

 むしろ、問題が起きた当時よりも、各事業部の皆が気合を入れて前向きにしっかりと取り組んでくれているので、かなり前進しています。それから、随分とWELQの問題で影響を受けてしまいましたが、遺伝子検査サービスやウオーキングアプリなどを手掛けるヘルスケア事業も、不平を言わずに攻めの歩みを止めていません。

 つまり、「永久ベンチャー」を標榜している私たちは、挑戦を諦めません。それをやめてしまったら、それはDeNAではなくなってしまうと思っています。

「永久ベンチャー」であり続ける

 永久ベンチャー。それは、DeNAのDNAとも言うべき言葉であり、南場会長が好んで用いてきた。しかし、第三者委員会はその言葉にこだわり、3月の記者会見では、第三者委員会の名取勝也委員長弁護士がこう苦言を呈した。

 「再発防止策として以下のことを提言します。まず、DeNAが目指すべき企業としてのあり方を正しく認識し直すこと。例えて言うのであれば、『永久ベンチャーは免罪符ではない』ということです。DeNAが掲げ、目指してきた永久ベンチャーとは、本来どのようなものであるべきなのか。再度、明確に定義づけ、全員の共通認識とすべきと考えます」

第三者委員会は膨大な調査報告書の最後に、「永久ベンチャーは免罪符ではない」という厳しい言葉を残しました。

南場:私たちは、決して永久ベンチャーという言葉は、間違いを起こすということを是とし、免罪符として使っていたわけではありません。むしろ、「永久」と言っているからには、世の中に歓迎されて初めてずっと挑戦をし続けることができるわけです。ここは、私にとって重要なことでしたので、委員会の先生方に結構、突っ込んで伺いました。

 すると先生方は、「永久ベンチャーという考え方は全く悪くない」と。ただ、「『世の中に歓迎されて初めて挑戦を続けることができる』という南場さんの考え方は、世の中やDeNAという組織の隅々まで正しく伝わっていなかった」とのご指摘をいただきました。

 ですから、もう一度、正しく伝えるところから、ゼロからやり直そうと思い、言葉自体はスローガンとして維持することにしました。

 「ベンチャー」という言葉には、「守りに入らない」「攻める」という意味があると思っています。持っているものを失わないようにするという引き算の考え方ではなく、私たちはやっぱり新しい挑戦によって、成功したものを付け加えていく。引き算より足し算、挑戦をあきらめないという考え方です。

 ただし、テクノロジーの進化や社会の進歩は、当然、新しいあつれきを生みます。その一つひとつの対処の仕方で、真価を問われていくのだと思います。都度、生じる社会的な課題に対して真摯にかつオープンに向き合う。その姿勢があれば、社会を前に進めていく一翼を担うことができると信じております。

 この「堅実を尊び、挑戦者を全力で応援する」という姿勢は、実は亡き夫が大切にしていた信条であり、DeNAの組織を作る上で、私が夫から最も影響を受けたことでもあります。