「報告したか?」「していません」

 「今回の発表を、鈴木敏文前会長(現名誉顧問)には報告したのか」

 会見で、記者がそう質問すると、井阪社長は「しておりません」と即答した。「鈴木前会長にこの件を報告したかどうかについてですが、報告はしておりません」と、よどみなく語った。

 絶対的なカリスマとしてリーダーシップを発揮してきた鈴木氏は、退任後もセブン&アイ本社から徒歩15分にあるホテルの一室にオフィスを構えている。グループ各社の経営幹部を含めて、ホテルの部屋を訪れるセブン&アイ関係者は今も少なくない。井阪氏の言葉からは、経営改革を主導するのはあくまで現体制、という意地が見えた。一方で今回の記者会見では、鈴木体制の下では、まず見られなかった、創業者への敬意を強調する場面が際立った。

 「売り上げが10兆円を超えるこの巨大グループの素晴らしさは、名誉会長が躾のように植え付けてくださった企業理念です。創業の理念を次の世代にも、しっかりつないでいくことが、私たちの大事な役割だと考えています」

 井阪氏は自身のプレゼンテーションの冒頭に、こう言ってみせた。名誉会長というのは、「オーナー」で創業者の伊藤雅俊氏とのことだ。「躾」という言葉が、企業経営の中で語られるのは異例に思えるが、商いの心得など「商人道」を説いてきた伊藤氏の、経営手法を的確に表している言葉でもある。

「この巨大グループの素晴らしさは、名誉会長が躾のように植え付けてくださった企業理念です」と創業者の伊藤氏を持ち上げた(写真:尾関裕士)
「この巨大グループの素晴らしさは、名誉会長が躾のように植え付けてくださった企業理念です」と創業者の伊藤氏を持ち上げた(写真:尾関裕士)

 続けて、鈴木敏文氏の経営のキーワードである「変化対応」「単品管理」そして、MD(商品政策)を軸とした成長などにも言及し、「さらに磨きをかける」と話した。だが記者には、最初に創業者に言及した順番が重要な意味を持つように感じられた。

 鈴木氏が提示した井阪氏が退任する人事案が、否決された大きな理由は、伊藤名誉会長が、人事案に反対したことだ。伊藤名誉会長の次男である伊藤順朗・取締役も、取締役会で人事案に反対票を投じた。井阪氏が率いる経営陣は、伊藤家が後ろ盾になっているということを、この日の会見は改めて明確に示したと言えるだろう。

 「そごう・西武の買収は旧経営陣の負の遺産か」。記者がそう質問すると、井阪社長は「グループ内に百貨店事業を持つことで、お客のあらゆるライフシーンに対応しようという考えは間違っていなかった」と答えた。鈴木氏の当時の買収の決断を尊重した格好だ。

次ページ 「オムニチャネル戦略」は全面見直しへ