三菱商事はローソンを子会社化する計画。写真は三菱商事の垣内威彦社長(写真:竹井俊晴)
三菱商事が、コンビニエンスストア大手ローソンの子会社化を検討していることが明らかになった。TOB(株式公開買い付け)などによって、出資比率を現在の33.4%から50%超に引き上げる計画。投資額は1500億円程度になるもよう。16日に開かれる同社の取締役会で正式に決定し、それを受けてローソン側も取締役会を開いて子会社化の受け入れを決める見通しだ。
三菱商事の垣内威彦社長は今年4月の就任当初から、「事業投資」から「事業経営」へと同社の事業モデルの転換を図ることを宣言してきた(日経ビジネスオンライン 2016年4月のインタビュー)。垣内社長の出身母体である流通や食料事業などを手がける生活産業グループが管轄するローソンを子会社化することで、成長が見込まれるコンビニ事業の経営にさらに深く入り込む意思を明確にし、「事業経営」の実践を強化する。
関係者によると、子会社化の狙いは「三菱商事という後ろ盾があることを明確化することで、“逃げない”ことを示し、信頼を担保する意義が大きい」という。既に昨春、出資比率を約32%から33.4%に引き上げ、重要な経営事項への拒否権を確保。今年6月には、三菱商事出身の竹増貞信氏が副社長から社長に昇格し、それまで社長だった玉塚元一氏は会長となって、三菱商事の関与は強まっていた。
ローソン子会社化に至る「4つの変化」
三菱商事によるローソン子会社化は、「4つの変化」がここ数年で一気に進んだことが大きい。
1つ目の変化が、2014年に新浪剛史氏がローソン社長からサントリーホールディングス(HD)社長に転じたことだ。当時、三菱商事はインターネットバブルの絶頂期だった2000年、コンビニが果たすインフラ機能に着目してローソンに出資。三菱商事社員だった新浪剛史氏(現・サントリーホールディングス社長)をローソンに送り込み、2002年に社長に据えた。
その後、新浪氏は三菱商事を退社し、三菱商事とは一定の距離を置き続けることで、社内外からの信用を獲得、求心力を高めていった。その結果、「三菱商事とローソンの双方が遠慮し続ける状況が続いていた」(ローソン幹部)。だが、新浪氏がサントリーHDに転じたことで、三菱商事にとってローソンへの関与を強めやすい状況になった。
ローソンは店舗数で業界3位に転落した(写真:的野弘路)
新生ファミマ誕生で3位転落
2つ目が、今年9月1日付で、コンビニ業界3位だったファミリーマートが、総合小売りのユニー・グループホールディングス(HD)と経営統合したことである。ユニー・グループHD傘下のコンビニ、サークルKサンクスをファミリーマートが取り込むことで、新生ファミリーマートの店舗数は1万8240店となり、セブン-イレブン・ジャパンの1万9044店に次ぐ2位の規模になった(いずれも8月末の国内店舗数。ファミリーマートはサークルKサンクスとの合算)。
これにより、長らく2位の座を維持してきたローソンは3位に転落。ある三菱商事幹部は、「規模のことは実はあまり気にしていない。既に十分な店舗はあると考えており、さらに店舗を増やしてもカニバリをするだけ」と話すが、取引先や加盟店がローソンに向ける視線は厳しい。規模の面でセブンイレブンやファミリーマートに引き離されたことで、加盟店や取引先の中には今後のローソンの競争力を不安視する声もある。
そこで三菱商事は、ローソンを子会社化することで、こうした不安を払拭したい考えのようだ。関係者によれば、「ローソンを三菱商事の子会社という形にしておかないと、今後、様々なステークホルダーの方々に迷惑をかけるかもしれない。この際、あまり裏でこそこそしない」として「親会社」になる決断をした。
「ケンタッキー」とは逆のケース
そして3つ目が、三菱商事のトップに垣内氏が就いたことだ。生活産業グループCEO(最高経営責任者)を務めた垣内氏の持論が、先に挙げた「事業投資」から「事業経営」への転換だ。この先成長を見込みにくい出資先では株式の持ち分を引き下げる一方、成長期待が大きい出資先では「3分の1より過半数、可能ならば過半数より100%」(三菱商事関係者)といった具合に持ち分を引き上げ、経営の主導権を握っていく考え方である。出資先の成長性に応じて、出資比率を見直していく。
例えば、垣内氏が生活産業グループCEOだった昨年11月、「ケンタッキーフライドチキン」を展開する日本KFCホールディングに対する出資比率を65.86%から37.90%に引き下げている。今回のローソン子会社化はこの逆のケースだ。
垣内氏は社長就任後、「事業経営」の考え方を社員や投資家に理解してもらうよう、力を注いできた。今回、ローソンという分かりやすい事例で示そうという思いもあるのかもしれない。
市場関係者からは効果を疑問視する声も
そして4つ目が、2016年3月期に三菱商事が資源・エネルギー事業を中心に巨額の減損損失を計上し、約1500億円の最終赤字に転落したことである。商社トップの座を伊藤忠商事に明け渡した。マイナスからの船出となった垣内社長は、非資源事業の強化を掲げるとともに、「再びトップに立って、その地位をきちっと守っていきたい」と公言している(本誌2016年5月30日号の編集長インタビューより)。
今回、ローソンの出資比率を引き上げると、三菱商事は連結純利益ベースで多少の増益効果が見込める。垣内社長が掲げる事業経営の方針では、出資先の経営への関与に見合った利益を着実に取り込むことを重視している。
ただ、今回の出資比率引き上げについては、投資家など株式市場関係者から、その意義について疑問を投げかける声も出ている。ある国内証券アナリストは、「事業経営を重視するという流れは分かるが、既に竹増社長も派遣し、事業の経営にも深く入り込んでいる。増益効果も少なく、いまさら約1500億円もの金額を投じて、これまでと何が変わるのか理解できない」と言う。
一般的に小売りは、商社と組むことに対する警戒感が強い。商社が扱う商品を押し込まれるのではないかと考えがちだ。一方、商社の中にも、企業間の取引が事業の中心である商社に消費者目線が大切な小売り事業ができるのか、という見方も根強い。国内のコンビニ店舗数は5万店を超えて市場は飽和しつつあり、今後成長が鈍化するという見方もある。低迷が始まれば、加盟店オーナーから不満が噴出しかねない。
ローソンの子会社化は、コンビニが今後直面しうる様々なリスクを三菱商事が本格的に抱え込むことを意味する。三菱商事には、全国で展開するローソン店舗を使い、地域の生産者やメーカーなどと組んで地産地消を推進し、地域の活性化を支援したい考えもあるようだ。
コンビニ経営の前面に、商社が出ていくことが吉と出るのか。「三菱商事の総力戦」で挑むローソンのテコ入れは、新たな段階に入った。
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