あきんどスシロー(大阪府吹田市)は9月15日、東京・南池袋に回転ずし店「スシロー」を出店した。
この新店は、全国に約440店あるこれまでの店とは一味違う。スシローと言えば1皿100円(税別)という低価格を武器に、郊外のロードサイドを中心に出店を進めてきた。
そんな同社が、都心に出店するのはなぜか。水留浩一社長兼CEO(最高経営責任者)は、2015年7月のインタビューで「未開の地として、都心のマーケットがある。我々が一番得意なのは回転ずしなので、スシローをどういう風に都心に持っていけるのか、挑戦したい」と語っていた。それから1年あまり、ようやく都心のスシローがベールを脱ぐ。
東京・南池袋に出店する回転ずし店「スシロー」。できる限り郊外のスシローのサービスなどを変えないような店づくりを意識したという(写真:陶山勉、以下同)
「郊外のスシローは、お客様に鍛えられて今に至っている。だから、店のサービスや雰囲気はできるだけ変えたくないと思った」。水留社長がこう語るように、店内にはすしが流れる回転レーンがあり、店内のイメージは既存店と大きくは変わらない。客層はファミリー中心のロードサイドとは異なり、一人客が多いことを想定して、カウンター席が多い印象だ。
だが、席に座ってみると、通常のレーンの下に、これまでにはなかった電車の「引き込み線」を有するレーンがある(下写真)。
各客席に設置した「Auto Waiter(オートウェイター)」。注文した商品がすばやく届くのでサービスの向上につながり、客席の回転率も高まる
これは、タッチパネルで注文したメニューが運ばれてくる専用レーンで、引き込み線のようなものが「Auto Waiter(オートウェイター)」という新しいシステム。オーダーしたメニューは、オートウェイターにより、注文客のテーブルに自動的に届く。
従来のスシローでは、スタッフが注文専用のトレイに載せて通常のレーンに流し、トレイが注文客の席の近くに来ると音声が鳴ったり、タッチパネルに案内が表示されたりして、メニューの到着を知らせる仕組みになっている。お客は自分の注文品が来るのを注意して見ておかねばならず、他の客が自分の注文品を誤って先に取ってしまうといったトラブルも起こり得る。また、通常のレーンに流しているので注文客に届くのに時間もかかってしまう。
だが、オートウェイターは、注文した客のテーブルに皿をすばやく流すことができ、結果として客席の回転率を高められる。スピーディーな提供と取り違いの防止により、サービス向上にもつながる。
スシローでは現在、お客が食べている皿の7割がタッチパネルによる注文だ。注文専用レーンに力を注ぐことは、大きな意味を持つ。
セルフ精算にも対応
皿の枚数をいちいち数えずに、小型の読み取り機をかざすことで把握できる仕組みを導入。別に注文したドリンクなどの情報と皿の数を一元管理できるシステムにした
回転率を高める工夫としては、会計作業の効率化もある。
回転ずしでは、スタッフが客の食べた皿を数えて、レジカウンターで精算する。スシローでは、皿をカウントする作業を省力化するため、携帯の読み取り機を導入。皿に埋め込んだICチップを読み取ることで、迅速な作業が可能になる。
注文情報がまとめられたバーコードの会計札をスタッフが客に渡す。この札を使えば、セルフレジを利用できる
お客自身が精算できるセルフレジを導入して、フロアースタッフの省力化や会計での待ち時間短縮を進める
すしだけでなく、ドリンクなどタッチパネルで注文した商品は、すべて携帯端末に記録されており、こうした情報がまとめられたバーコードの会計札をスタッフが客に渡す。レジカウンターにはセルフレジも導入しており、自身でバーコードをかざしての自動会計もできる。これらは、混雑時の会計待ちを解消する取り組みでもある。
同社によれば、こうした省力化により、客の滞在時間は5%程度短縮されるという。都心で徹底的に効率を追求するために導入した技術だが、郊外店での導入も十分可能だろう。
価格については、テナント料や人件費など運営コストが高いことから、1皿120円と通常のスシローよりも高めに設定した。「効率を高めた上で利益を取れるぎりぎりの価格」と水留社長は説明する。
「横展開が可能な都心の成功モデルをつくる」
都心型の1号店となる「南池袋店」は、JR池袋駅から徒歩5分ほどの立地にある。人通りはあるものの、駅前一等地ではない。だが、それは今後のチェーン展開を考えてのことだという。「南池袋店のような立地は都心には多くある。まずこの店で成功モデルを作って横展開していく」(水留社長)。
あきんどスシローは、年30~40店ペースで新規出店を進め、今後3年間で100店をオープンさせる計画だ。2017年9月期中には、これまで店舗がなかった青森県・島根県へも進出する予定。当面、これまで通り郊外型店舗の展開が中心となり、「都心型店舗が100店のうち50を占めるというようなことはない」(水留社長)。とはいえ、都心型店舗も着実に展開を図っていく方針で、既に次なる出店先の検討に入っているもようだ。
サバのすしをパンではさんだ「鯖(さ)バーガー」(1皿200円、左上)や「おまかせ3貫盛り」(120円、右下)など、この店ならではの商品も揃えた。郊外のスシローよりも安い皿もあるという
一方であきんどスシローは、都心向けの実験店として2015年にオープンした「ツマミグイ」「七海の幸 鮨陽」を、今年6月までにひっそりと閉店している。
水留社長は「30、50店という規模に広げられないと思った」と話す。これらの店には、レーンがない。注文に応じて職人が握り、お客に提供するテーブルサービスの店だ。創作ずしやすし以外のサイドメニューを充実させ、スシローとは全く違うコンセプトをうたっていた。ただ、こうした店舗を運営するには、相対的に広いキッチンスペースが必要になり、客席を多く取って回転率を高めるような運営形態は困難だった。多店舗展開していくのに欠かせない、すし職人の確保もなかなか難しいと判断したようだ。ただし、テーブルサービス型の店舗開発をあきらめたわけではなく、「食材の外部加工を一部に採用するなど、狭いキッチンでも効率的に運営できる店舗のあり方を検討中」(水留社長)だという。
ポイント機能が今秋にも全店で導入
あきんどスシローの水留浩一社長兼CEO(最高経営責任者)
外食業界では、ここ数年続いていた値上げの反動による客数減の影響などもあり、低価格商品を投入して客足の回復に力を入れる企業が目立つ。ただ、「回転ずしについては決してダウントレンドではない」「スシローは客単価も下がっておらず、追い風の状況」と水留社長。
同社は、今年度、ハマチやタイなどの皮引きを店内で行うなど鮮度にこだわった商品に力を入れてきた。また、大きめのサイズのウナギやトロなど目玉商品が好評を博し、今夏は客数が特に好調だという。業績は非開示だが、今年5月に、2015年10月~16年3月期の実績について、「売上高は700億円超で前年同期比8%増」「過去最高の営業利益」「既存店売上高は前年比0.1%増」と発表済みで、通期でもこの傾向が継続しているようだ。
確かに100円ずしは週末には入店を待つ家族連れでごったがえす盛況ぶり。だからこそ、顧客満足度を向上させながら、業務効率化を進める工夫が欠かせない。
スシローでは、来店予約などができるアプリを自社で開発している。今秋からは、アプリ上にポイント機能を導入する予定だ。全店共通で貯められる仕組みで、リピート率の向上につなげる。また、「(値引きのような)経済的なメリットではなく、ヘビーユーザーが喜んでくれるようなサービスを検討中」(水留社長)。いち早く新商品の試食ができる顧客参加型のイベントなど、アイデアは色々あるという。
あきんどスシローは2009年に上場廃止となり、現在はプライベートエクイティファンドである英ペルミラの下で、経営改革を続けている。来年にも再上場する見通しとされ、市場に対して、着実な成長をアピールする必要もある。
都心は確かに同社にとって“未開の地”ではあるが、一方で、外食企業がしのぎを削る主戦場。まずは南池袋店をいかに成功させるか。その結果が、郊外型に次ぐ柱を育てられるかの試金石となる。
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