M&Aは「真逆の感性」を持った企業
(米子会社で2014年に買収した)タルトも小林社長の「感性」でM&A(合併・買収)を決断したと聞きます。同社の2016年度の売上高は282億円、過去2年で3.5倍に伸び、営業利益は84億円と、コーセー全体の2割強を占めるようにまで成長しました。
金融機関のM&A部隊からいただくリストは、正直「なぜ今頃こんなブランドなのか」と思うようなものもたくさんあります。そうしたリストからはほとんど選ばない。ファンドが持っているとか、1度でもそういう噂になったものには興味がありません。プライベートな人脈や小さな個人でやっている非公開案件を扱う紹介会社といったところから情報を得ています。タルトもそうしたところから情報を得ました。米国や欧州の巨大ブランドを手にして、その市場を一気に刈り取るといった思想ではなく、小さくても消費者から支持を得ていて、我々がそこから新しいノウハウを学べるようなところを選ぶという思想でM&Aに挑みました。
タルトは、その意味で、我々の感性と違うものがあったからこそM&Aに踏み切ったといえます。他の経営陣は皆反対しました。「日本で売れそうにない」と。私はだからこそいいのだ、と押し切った。「我々と違う感性を受け入れてみようじゃないか」と言ったのです。
創業者のモーリーン(・ケリー)さんの「化粧品愛」も、会った瞬間から分かりました。QVC(通販番組)に自らが出演して商品を販売する手法をとっていて、「私の顔を知らない女性はいないわよ」と話していたのも印象的でした。米国版ジャパネットたかただな、と思ったのです。巨大なマーケティングコストを払えるわけでもないので、体を張ってやっていると聞いた時、なるほどなと思いました。自分で商品のことを語ってブランドを自ら創っている姿勢が面白いなと感じたのです。
買収後は、我々の会社から研修生をタルトに派遣しています。買収した子会社に親会社の役員が出向することは多いと思いますが、逆ですね。ノウハウを学んでこい、と。

国内では目下資生堂の背中を追いかけることになりますが、海外に目を向ければ、巨人がひしめく業界です。見習っている企業はありますか。
仏ロレアルはずっとお付き合いがあり(※1963年に技術提携)、40年間彼らを見てきたので、化粧品会社として、また上場会社としても非常に参考にしています。米国だとエスティ・ローダーでしょうか。どちらかというと米国市場の中におけるお手本として見ていて、特にブランド政策を参考にしています。エスティローダーは同族で経営している色合いが濃いので、同族企業の私たちとしては参考になる部分は多いと思います。
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