返品焼却現場に営業担当を立ち会わせた

返品を減らすためにどんな施策を行ったのですか。

 まず、営業担当からの報告書のフォーマットを変えました。それまではどれくらい店に対して売り上げたかが重要でしたが、返品率が最も見えやすいようにしました。「売り上げ至上主義」ではなく「消化主義」にしたのです。それでも返品率が下がらない営業担当には、流通センターに3トントラックで戻ってくる商品を見せ、場合によってはその焼却にまで立ち会わせました。発売したばかりの、新品の「雪肌精」などが燃やされる姿は、営業担当ならずとも目を覆いたくなる風景です。時にはそうした荒療治をしながら、社内の慣習を変えていきました。

 商品政策が合ってなかった面もありました。セルフの流通は速いですし、商品づくりも研究開発から商品開発に至るまで、何年もかけてやっているわけにもいかない。旬なファッション性を取り入れたり、セルフで手に取って買ってもらったりするためには、分かりやすさやアピールするポイントが変わってくるわけです。カウンセリングでじっくり売る商品とは性格が違うので、そういう物づくりには実はあまり慣れてなかった。当時は「コーセーさんの商品ちょっと難しいね」とか、「物はいいんだけどちょっとセルフの商品としてアピールが足りないね」と言われていましたし、単価が高いといった価格面も含めて、ドラッグストアからウケが良くなかった。そうしたところを一気に変えました。

同じような考えから、新商品の数やブランド数も減らしました。

 新商品は、出せば売れるので、売り上げは立ちますが、弊害もあります。新製品が出るとどうしてもそれを売り込むので、これから育っていこうとしているブランドが棚落ちしたり、返品されたりする。商品のライフサイクルが短くなってしまうのですが、極端に言えば、新製品を出すことで、それを自分たちで促していたのです。

 売り上げ至上主義から脱すれば、必然的に売り上げを立てるための新商品乱発も避けられます。新商品を厳選し、既存品の拡販に注力して「ロングセラー化」を図りました。結果、各月の売り上げに占める新商品の売り上げの割合は2007年当初に比べて、現在3分の2程度に抑えることができています。

 商品数やブランド数も同じです。特に、ドラッグストアのブランドについては、資生堂やカネボウ化粧品が強かった市場でもあったので、相手が出せばこちらも出す、といったようにブランドを当て込んでいった背景があります。結果、ブランドが多すぎて、お客様が選べない、ブランドの特徴がうまく出せていないということが発生していました。

 百貨店を中心としたカウンセリング販売ならまだしも、セルフでお客様に手にとっていただくドラッグでは、分かりやすいブランド設計が欠かせない。「美白」なのか「アンチエイジング」なのか、メーキャップなのか、スキンケアなのか、それぞれの特徴と攻める市場を明確にしました。ブランド数も10年前に比べて2割程度絞り込みました。

2万3000~2万4000店あった取引先店舗数も1万9000店程度に減らしました。

 非常に難しい判断でもありましたが、一定の売り上げが計上されていても、返品が多くて結局は赤字取引になっている店舗も少なくありませんでした。「少額店舗を切り捨てるのか」とか「数をそれだけ減らして売り上げは大丈夫なのか」とか様々な方面からご意見がありました。でも1度それぐらいやらないと、リスタートはできないと思っていたのです。

思い切った改革ができたのは、同族経営という強みがあったからでしょうか。

 僕自身がそう思うと言うよりは、ほかから言われることはあります。以前、経営学を専門でやられている先生から言われたのは、「普通の経営者がやりがちな、『やってはいけないこと』をやらない」と。サラリーマン社長だと前任者と違うことをやろうとするとか、新しいことや目新しい事業展開をやるといったようなことがありますよね。前任が白と言っていたことを黒と言う、とか。言われてみて、確かにそういうことはないな、と感じました。

 弊社では代々受け継がれている言葉として、祖父(創業者兼初代社長)の「正しきことに従う心」というのがあります。自宅にも支店にも貼ってあって、お得意様にも配って歩いていたような大切な言葉です。今はコンプライアンスとか、ガバナンスとか言いますが、「正しきことに従う心」というのは、いつも私の頭の中にあります。そのために、謙虚な気持ちと勇気が必要だと思っていて、それはやはりやってはいけないことをだめだと判断できることにつながっていると思うのです。

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