「ベビースターラーメン」ブランドを持つスナック菓子メーカー、おやつカンパニー(津市)が台湾に工場を建設し、年内にも生産を始める。海外で現地生産に乗り出すのは初めて。その狙いを探った。
おやつカンパニーは「ベビースターラーメン」など主力商品の、海外初の現地生産に乗り出す
おやつカンパニーは1948年に設立。スナック菓子「ベビースターラーメン」や、パン系スナック「フレンチラスク」などを製造販売する。2016年7月期の売上高は約200億円。
同社は2014年、投資ファンド、カーライル・グループの傘下に入った。投資後の経営改革の成果や、今後の成長戦略などをカーライルの山田和広・日本代表、富岡隆臣マネージングディレクターに聞いた。富岡氏はおやつカンパニーの社外取締役を務める。
おやつカンパニーの強みは何ですか。
富岡:ラーメンスナックというニッチな市場で圧倒的な存在感を持つ企業だ。スナック菓子業界でみても、規模は決して小さくない。小袋菓子が得意で根強いファンがおり、取引先のコンビニエンスストアとの関係も良好だ。コンスタントに新商品を生み出す高い開発力も持っている。
投資を機に、どのような施策を進めましたか。
富岡:財務やマーケティング部門のトップに外部人材を起用したほか、専門のプロジェクトチームを立ち上げて勉強会を開くなど、機能の強化を進めた。松田好旦社長には強いリーダーシップがあり、投資後も引き続き社長を務めている。
台湾から香港に輸出も
次の成長へ、どのような手を打ちますか。
富岡:現在、台湾の台北エリアに工場を建設中だ。年内をめどに完成し、生産を始める。海外で初の現地生産になる。おやつカンパニーは台湾と、香港をはじめとする中国で約30年、ベビースターの販売実績があるが、商品はこれまで日本から輸出していた。
現地生産のメリットは大きい。台湾に工場を作れば、そこから台湾だけでなく、香港などにも輸出できる。日本から中国に輸出するよりも出荷がスムーズにいくだろう。約30年の実績でベビースターの認知度は高い。アジアでの売上高は安定して伸び続け、現在は10億円程度になった。菓子需要の高まりで、市場規模はこれからさらに拡大するだろう。現地生産で供給量を増やし、需要の増加に対応する。
台湾の工場では、ベビースターシリーズなど複数の商品を生産する予定だ。提供できる商品数も増やせるだろう。生産を始めてから1年で、アジアでの売上高をまずは2倍の20億円に増やしたい。アジアではおやつや、酒のつまみとして食べられているが、他の様々なレシピを提案し、消費拡大を後押ししていく。
もやし販売もアジア展開にらむ
おやつカンパニーは海外展開に一層力を入れるわけですが、国内の食品市場の動向はどう見ていますか。
カーライル・ジャパンの富岡隆臣マネージングディレクター
富岡:業界への投資はこの10年で非常に拡大している。日本がある程度大きい規模の市場だったため、これまでは国内に事業の主軸を置いて投資してこられた。技術力は総じて高く、オーナー系の中堅企業が多く生き残ってきた。
潮目は明らかに変わりつつある。ここ数年の人口減少などを受けて、国内市場では発想の転換が必要になっている。胃袋の数の成長を取り込むのではなく、限られた胃袋の中でシェアをどう上げていくかの勝負になってきた。
食品で他に有望な企業は。
富岡:今年3月、もやし・カット野菜の製造販売で西日本大手の九州ジージーシー(大分県竹田市)に投資した。日本で農業は絶対に必要な産業で、競争力を高めないといけない。計画生産ができることなど、農業の工業化は重要なテーマ。それが進む企業として投資先に選んだ。
同社は1990年に設立。もやし「名水美人」は日本で最も売れているブランドで、市場シェアで10%程度を持つ。現在は国内の中国・四国・九州地方で事業展開していて、食品スーパーが主な取引先だ。高品質のもやしの生産に適した地下水を活用できるほか、自動化設備を導入し生産性も高い。投資後、外部人材を副社長に起用するなどの取り組みを進めている。
小家族化の中、もやしやミックス野菜などのカット野菜商品は需要拡大が見込めて成長領域だ。現在は大分県と岡山県に合わせて4工場を持つが、ラインの拡張や新工場の建設を通じて規模を拡大する。
中長期の目標として台湾や、香港など中国で、高品質のもやしを売り込みたい。経済成長や小家族化の中で、もやしやカット野菜の需要は日本と同様に拡大が見込めるからだ。おやつカンパニーのスナック菓子に続く食品の成功事例にしていきたい。
1件100億円規模で投資
カーライルの事業の現状は。
山田:カーライル・グループは1987年に米国で設立。世界に23の拠点を持ち、約550件の企業投資と、約890件の不動産投資の実績を持つ。運用総額は約18兆円。日本では2000年にオフィスを設立し、これまで22社に投資し運用総額は約3350億円となっている(実績はいずれも2016年6月末時点)。
日本での投資方針は。
山田:1件当たりの投資額は100億円前後としている。優れた商品や技術、サービスを持つが、人材やネットワークが不足し、海外展開にも後れをとる国内企業が主な投資先だ。
規模が大きい投資案件だと事業会社が買い手として参入してくるし、数億~数十億円規模の小さい案件でも日本の独立系のファンドが多く入ってきて競争が厳しい。その中で100億円前後はそれほど競争が激しくないことに注目した。
カーライル・ジャパンの従業員は全員日本人で、海外勤務や留学の経験もあるメンバーで構成する。これまでの投資先22件のうち18件は相対で、企業に直接連絡を取り、話をまとめていった。
投資先にはどのように関与しますか。
山田:人やモノ、カネなど投資先に足りない要素を見定めて加えていく。中堅企業は意外と明確な戦略を持たず、今までの事業の延長で伸びてきた企業が多い。そこに方向付けをする役割を当社が担う。
投資先が上場企業の場合、いったんは非上場化することが多い。当社は投資し、経営改革を終えるまで3~5年はかかる。その期間中、一度はどうしても業績が下がる。上場したままだと他の株主の目が厳しくなり、大きな改革を進めにくくなるからだ。例えば2011年に投資した医療事務受託大手の日本医療事務センターは、2012年に上場を廃止。社名をソラストに変更し、経営の立て直しを進めた。改革のメドがついたことで、今年6月に再上場した。
最近は創業者や創業家からの事業承継も課題です。
山田:確かに現在は、創業家一族の中で事業が承継され続けていた時代から変わってきた。企業によっては、経営に関わる創業家がいない。経営を継がず、保有株を手放して現金に換えたいという意向の創業家も多い。その中で、どのような人材に次の経営を託せば良いのかと、当社にサポートを依頼する例が増えている。
富岡:当社が投資しても企業の独立性は変わらない。独立性を保ちながら、かつ永続して事業ができる経営体制を築いていく。
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