日本人に求められる覚悟

 これらの兆候は、現時点では観測されていない。弾道ミサイルの発射実験については、ロフテッド軌道による実験が限界を迎えたので、実際の弾道軌道に近い飛び方でデータを取った、というところが北朝鮮の本音であろうし、核実験の実施はあり得る、と国際社会は事前に予測してきていた。「先軍政治」体制の北朝鮮は、現段階ではこれら実験を米国や国際社会に対する「政治的」メッセージとして有効活用し、着々と核・ミサイル技術の進展を図ったと見られる。

 従って、近々にも日本周辺が有事となると考えるのは行き過ぎた解釈だろう。ただし、今回の核実験を含めて、米国にとっての「レッドライン」が不明確である点は、依然、この地域の安全保障にとって不確定要素となっていることは間違いない。それは今回の核実験であったのかもしれないし、グアムやハワイ近海への弾道ミサイルの発射かもしれない。いずれにしても、不明確であるからこそ、相手との駆け引きが成立するというものだ。

 このような状況下において、私たち日本人には、ある覚悟が求められる。私たちが住むこの北東アジア地域は、決して愉快な楽園ではない。米ソ冷戦期から引き続く戦力構造がそのまま残され、核兵器の保有を目指す隣国が存在する地域なのである。そして同時に、世界に類を見ない新たな戦闘様相を目の当たりにしているという、極めて不確実、不透明で不安定な環境に立たされている。

 戦争による解決を選択するのか、非常に戦争に近い緊迫した状況により外交的解決を成功に導くのか、あるいは戦略的な妥協の道を探るのか。いずれの場合であっても、変化の中で思考を推し進め、変化を恐れず、新たな未来を切り開く責任と勇気が求められる。私たち日本人は、単に不安や怒りに包まれるのでなく、現状を正面から直視し、地域の平和と安定をリードしていく覚悟を決めなければならない。今、まさに私たちは歴史的な転換点に差しかかっているのではないだろうか。

上村 康太
元航空自衛官


防衛大学校卒。航空自衛隊の戦闘機部隊などで勤務後、指揮幕僚課程を経て外務省北米局日米安全保障条約課、航空幕僚監部防衛部、防衛省内局日米防衛協力課などで勤務。