米国は本年4月6日、シリアのアサド政権が化学兵器を使用したとして、59発のトマホーク巡航ミサイルを発射し、シリア側の化学兵器拠点とされる施設などに限定的な空爆を行った。では、これと同じような作戦を北朝鮮に対して行う可能性はあるのか。

 既に戦闘状態にあったシリアの場合とは異なり、朝鮮半島は現在、休戦中である。たとえ限定的であっても、一度攻撃に踏み切ってしまえば、それなりにバランスが取れていた朝鮮半島は、突然、開戦のリスクを背負うこととなる。いざ開戦となれば、地域が一気に不安定化し、経済活動も大混乱する。このため、攻撃に踏み切る敷居は高く、そもそも戦争後の朝鮮半島の統治のあり方が見出せていなければ、あまりにもリスクが高い一手となる。

 しかし、このまま単なる「話し合い」だけで現状を解決できるかは疑問が残る。今後、想定すべき選択肢は大きく分けて3つあるだろう。

 1つは、本格的な戦争によって問題を解決する選択肢だ。朝鮮半島から在韓の外国人を逐次避難させ、1991年の湾岸戦争時のように、約半年ほどで北東アジア地域に戦力を増強する。準備が整ってから北朝鮮に対して先制攻撃に踏み切り、一気に北進する。軍事的な制圧後、現在の北朝鮮の体制を一掃し、新たな政権を樹立するシナリオだ。米軍を中心とする圧倒的な兵力による先制攻撃は、朝鮮半島の戦力構造を念頭に置いた場合、戦いに勝利する可能性が最も高い。

 2つ目は、力と圧力を背景とした外交により、核・ミサイル開発の放棄を要求する。有効な交渉のためには、北朝鮮が真剣に対応するための「脅し」が必要となる。経済制裁に加え、第一の選択肢の場合と同様、北東アジア地域への戦力増強を開始して先制攻撃の態勢を確保しつつ、力を背景とした「話し合い」により事態を進展させる。この場合、当然、開戦のリスクも背負うことにもなる。

 そして3つ目は、双方の戦略的妥協だ。現状を追認する形で北朝鮮による核保有の現状を認め、北朝鮮からも妥協を引き出すことを目指しつつ、当面の開戦リスクを下げる。ただし、日本を含む近隣諸国は、その後も彼らからの軍事的な影響力を受けることとなり、北朝鮮という核兵器保有国の存在によって一層の不安や恐れを抱え込み続けることとなる。

企業経営上の指標

 現在のように事態がエスカレートする段階では、危機管理上、残念ながら事態が更に悪化することを想定し、準備しておかなければならない。各社における様々なビジネスモデルやフットプリント(拠点)がある中で準備の緩急を一概に語ることは難しい。しかし、少なくとも社員の安全は、どの企業も最も重視すべき課題の一つであることは間違いない。

 その場合、次の事態へエスカレートする兆候を絶対に見逃さないことが重要だ。具体的には、朝鮮半島で米軍による「非戦闘員退避作戦」(Non-Combatant Evacuation Operation:NEO)の開始である。約20万人の在韓米国人を空港から軍用機で他国へ移送したり、バスや鉄道を使って南部のプサン港まで輸送し、船で日本などへ移動させる。同時期に、日本も外務大臣の依頼に応じ、自衛隊が自衛隊法第84条に基づく「在外邦人等輸送任務」を開始することになる。

 また、在日米軍基地への戦力の増派も危険サインとみなす必要がある。嘉手納・普天間(沖縄県)、横田(東京都)、岩国(山口県)、三沢(青森県)、厚木(神奈川県)などの在日米軍基地へ各種の航空兵力が多数展開したり、大規模な陸軍・海兵隊兵力の輸送が行われたりするような報道情報には、十分に配慮する必要がある。

 その上で、様々なインシデントが発生した直後に開催される国家安全保障会議(NSC)に注目するとともに、官房長官による公式発表を注意深く聞く必要がある。北朝鮮周辺でわが国の安全保障環境に影響を及ぼす事態が発生すると判断される場合は、「重要影響事態」に該当すると認定され、日本も順次、有事の態勢へと移行する流れとなる。

 そして、それぞれの兆候が出た際、社員の安全を確保するために、どのような行動をとるべきかを予め定め、各企業内の意思決定プロセスを構築しておくことが肝要であろう。

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