(北海道の)襟裳岬沖の1180kmまで飛んだ、ということが重要なのではない。その先にはハワイがあり、米太平洋軍司令部を置く基地がある。この基地は、米軍が太平洋地域で作戦を行うための中枢であり、多くの情報がネットワークで集約され、最新鋭のステルス戦闘機「F-22」をも含む大規模な兵力が配備されている。

 さらに、日本にとってこの基地は、米国が日米安全保障条約に基づく対日本防衛義務を果たすための作戦中枢でもあり、そのトップはハリス海軍大将 ( 弾道ミサイル発射直前の8月22日に韓国入りし、北朝鮮を牽制した人物)だ。北朝鮮は、今回のミサイル発射により、米国に対して明確なメッセージを送ったのである。「今後は、日本を越えてハワイに向かって撃つ」と。

 トランプ大統領は発射直後の8月29日、こう発言している。「世界は北朝鮮の明確なメッセージを受け取った。それはすなわち、この政権は隣国そして国連のすべての加盟国を軽視し、さらには国際社会が求めている最低限の振る舞いすら尊重できないということだ」

 北朝鮮は更にその上で核実験を強行し、「核兵器をも弾道ミサイルに搭載できるぞ」と、全世界にメッセージを伝えた。今回の一連の事案によって、双方の主張は完全に衝突する事態を迎えた。

中国軍の特異な動き

 実は、中国の動きにも警戒すべき変化があった。弾道ミサイル発射5日前の8月24日、中国は「H-6爆撃機」6機を紀伊半島沖まで飛行させた。これまでにない特異な行動とされ、同日付で統合幕僚監部が公表した情報(下図)によると、その爆撃機編隊はゆうゆうと第一列島線(中国海軍および中国空軍の対米国防ラインの1つ、九州を起点に、沖縄、台湾、フィリピン、ボルネオ島にいたるライン)を越え、グアムまでの弾道軌道をカバーする高知県沖の太平洋上を飛行していることがわかる。

統合幕僚監部報道発表資料(2017年8月24日)から抜粋
統合幕僚監部報道発表資料(2017年8月24日)から抜粋

 実は、このH-6爆撃機にはイージス鑑などを攻撃可能な長距離の空対艦ミサイルを搭載することができる。つまり、グアムに向けて発射される弾道ミサイルに対抗する日本及び米軍のイージス艦に対し、「こちらも手があるぞ」と威嚇した、と日本や米国に捉えられても不思議ではない行動をとったのである。

 この公開情報だけでは憶測の域を出ないが、仮に8月24日の中国のこの行動が北朝鮮の陽動作戦と連動していたとするならば、事態は一層、複雑な方向に発展する可能性がある。中国は、あたかもグアム付近への発射を念頭に置いたかのような行動を見せ、北朝鮮の陽動作戦に加担したのではないか、という不信感が軍関係者の間に生じかねないからだ。

 結局、9月3日に強行された北朝鮮による核実験とも相まって、今、北東アジア地域は不透明・不確実な様相を呈しており、事態は確実にエスカレートしていると見るべきだ。なお、中国外務省は北朝鮮の6回目の核実験に対して、「国際社会の反対を顧みず再び核実験を実施した。中国政府は断固たる反対と強烈な非難を表明する」との声明を発表している。

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