堀江:ただ、メディアの潮目は変わっていた。ゲームでもニュースサイトでも、どんどんリッチコンテンツ化(動画や音声などを利用した情報提供の総称)し始めていました。15年くらいから、中国のニュースサイトも一気に動画化に舵を切った。つまり、これは当然と言えば当然ですが、人間はよりリッチなものを望んでいる。 これがはっきりしてきました。

 大学生で起業したので、資金はない。そんな僕らでも戦えるものって何だろう。参入障壁が低く、将来的に時価総額1000億円以上狙えるものって何だろう。それを考えたときに、「動画だろう」と。

 コンセプトは、安く作れて既存メディアを置き換えられるもの、かつ、コンテンツが資産化していくもの。言い換えれば、古くならないもの。ファッション動画は5年経って古くなったら誰も見なくなる。いろんなジャンルを試しましたが、その答えが料理でした。「食」って古くなりませんから。

 レシピサイトの「クックパッド」を動画で置き換えてやろうと。それがサービスのスタートです。

一方で、堀江さんが事業を考えていた頃はCGM(消費者生成メディア)の全盛期でもあります。大量のコンテンツを生み出すには、消費者にコンテンツを作ってもらったほうが手っ取り早い。おっしゃったクックパッドも、レシピを消費者が投稿する仕組みを採用しています。あえて、自社でプロが作る動画コンテンツにこだわった理由は?

堀江:クックパッドには200万レシピが掲載されています。よく投資家に「置き換えるって言うけど、全部動画にできるの?」ってよく聞かれるんですが、僕は「それは違う」と反論します。

 料理と食材で、1000通りも想像できないですよね。1000通り想像できたとしても、それぞれに10のレシピがあれば、十分、消費者は満足できるはずです。グーグルで検索して実際にクリックするのって、上位10件くらいでしょう? つまり、動画が1万本あれば十分なんです。クックパッドの200万レシピのうち、トラフィックが集まるのは上位1〜5%のコンテンツだけですよ。残り95%以上は要らない。動画化する必要なんてないんですよ。

 それから、コンテンツにとって「プロかプロじゃないか」は正直、あまり関係ないと思っています。よく取材で「なぜクラシルの動画は愛されているんですか」と聞かれますが、僕は「うちのコンテンツに競争優位性はありません」と答えています。

コンテンツではなくシステムで勝負が決まる

堀江:もちろん、コンテンツをより良くする努力はしているし、信頼が大事だということも分かっています。でも、カレーを作る動画なんて、うちが作っても競合の「TASTY(テイスティ)」が作っても品質はほとんど同じです。

 そうじゃない。適切なコンテンツを適切なタイミングで適切な場所に置く。そこで勝負が決まるんです。こういったシステムの優位性が今後のビジネスでは圧倒的に大事になってくる。うちはそこに集中しています。

 例えば、「同じカレーを作る」という意味ではコンテンツに差異はありません。ただ、「なんで今日カレーを作るの?」「なんでこの時期なの?」「なんでアプリのこの位置にこのカレーの動画を表示するの?」という視点で見ると全く違ってきます。それがシステムの優位性という意味です。

 もちろん、コンテンツという意味でも企画段階では工夫しています。例えばテイスティの動画は面白いけど実用的ではない。だって、スイカを半分に切って器にしてウオッカを入れるなんて、(多くの人には)参考にならないじゃないですか。

 日本人が知りたいのは、冷蔵庫の中に入っている食材でいかにその日の晩ご飯を作れるか、ということですから。だからうちは最初から実用的なものに絞りました。だからこそ、検索性を考えて、ある程度、本数を増やす必要がありました。

 これは8月24日に正式に発表しますが、料理動画の本数で世界一になりました。僕らは最後発です。なのに、なぜこんなことができたか。最初から適切なコンテンツをユーザーにどの程度の本数を届けなければならないか計算して、そこに向かって全力で走ったからです。自社のアプリにコンテンツを蓄積して、検索性を高める。その方向は最初からぶれていません。