大学の既得権保護の犠牲者は学生

 もっとも、この文科省告示は、23区の私立大学、とくに定員数の多い大学にとっては必ずしも悪い話ではない。2017年度の「学校基本調査」では、23区内の私大に通う学部生は約44万人で全国の約2割強を占めている。今後とも、多くの学生がやはり23区で学ぼうとすると、文科省主導の「事実上のカルテル」のおかげで定員数が現状の水準のまま固定される私大は、努力しなくとも学生を容易に確保できることになる。

 新規参入の抑制ほど、既存の大学間の競争を抑制し、その質を下げることに効果的な政策はない。小泉政権時には構造改革特区を活用した株式会社大学が容認され、企業のニーズの大きな「デジタル美術大」等も生まれたが、その後は一校も認可されていない。今後、定員の抑制策で東京23区に新しい大学や学部の新陳代謝が進まなければ、上海やシンガポールなどの大都市と比べた東京の大学のランキングがさらに下がる可能性もある。

 日本の大学の質向上には、海外の大学の市場参入も有効である。しかし、テンプル大学等、外国大学の日本校には、いくら教育の質が高くとも、学校法人の基準を満たさないとして、私立大学に与えられる税制上の優遇措置はまったくない。海外から直接投資を呼び込むことが成長戦略の大きな柱なら、せめて外国の大学への税制等の平等な取り扱いを図るべきだ。

 大学の定員抑制は、過去の地元の中小商店の保護を名目とした大型小売店の規制法と似ている。その結果、大きな利益を得たのは、すでに立地している大型小売店であったのと同じである。この文科省告示の最大の被害者は、いうまでもなく東京の大学で学びたい多くの学生である。

 

新規参入規制よりも退出の促進を

 少子化で18歳人口が傾向的に減少する下で、大学の定員を増やし続ければ供給が増え過ぎて共倒れになるという。しかし、それは新規参入の抑制ではなく、利用者に選ばれない大学の退出で対応すべきである。

 

 学生の不安を煽る大学の倒産・廃止はタブー視されているが、信用不安を引き起こす銀行についても、預金保険制度で混乱なく退出が可能になった。大学についても、定員割れが一定期間以上続き、経営不振で持続性に欠ける大学の学生を、同レベルの他大学への編入学を円滑に進められる仕組みも必要だ。また、大学の質担保には、現行の学部等の新設や定員増の時だけ厳しく審査する事前規制から、経営の実態を第三者がチェックして、その情報を公開する事後規制への転換が求められる。