実は、東京23区のような特定の地域を限定した大学の抑制策は、今回が初めてではない。これは2002年に廃止された、東京圏や関西圏の工場や大学の新設・増設などを制限していた「工場等制限法」の事実上のコピーである。こうした大都市の発展を抑制する「国土の均衡ある発展」政策は、過去の人口が増えていた時代でも成功しなかった。まして人口減少がすでに始まっている現状で、改めて地方大学の保護政策を地方創生の切り札とするのは本末転倒である。

まち・ひと・しごと創生会議の不思議な論理

 この会議の報告書には「地方創生の実現に当たり大学の果たすべき役割は大きいが、大学の特色作りが十分でない、地域の産業構造への変化に対応できていない」との指摘がある。このため「地域に真に必要な特色ある大学の取組が推進されるよう、産官学連携の下、地域の中核的な産業の振興とその専門人材育成等に向けた優れた地方大学の取組に対して重点的に支援する」とある。

 この模範例となるものが、鳥インフルエンザへの対策や創薬のための実験動物を研究する高度な獣医師を養成する学部を構想した京都や愛媛の大学であった。しかし、国家戦略特区で風穴を開けられるまで、既存の獣医学部を持つ大学の利権を守るための文科省告示で、学部の新設自体が棚上げされてきた。これは地域の先進的な事業者の自由な活動を妨げている規制の改革が、地方の活性化にとって重要なことを示す一例といえる。

 また、同会議の文章の続きとして「学生が過度に東京へ集中している状況を踏まえ、東京(23 区)の大学の学部・学科の新増設を抑制する」がある。しかし、何の根拠をもって「過度」というのか、その根拠は示されていない。

 確かに23区内の大学生数は増えているが、首都圏全体ではほぼ横ばいである。これは過去の工場等制限法で、都心部から遠く離れた山の中にキャンパスを作らざるを得なかった私大が、2002年の規制撤廃のおかげで、徐々に撤退し始めた影響もある。この大学の都心回帰は学生の利便性を考えれば当然のことである。これに対して同会議は「東京圏周縁で大学が撤退した地域の衰退が懸念される」というが、地元商店街の利益を守るために大学の立地を規制するのは本末転倒だ。

 いったん政府の規制で保護された産業は、それに依存し続けるのが合理的な行動となり、むしろその衰退を早める要因となる。保護政策は、すくなくとも時限措置でなければならないが、人口減少が続く中で、この地方大学の保護はいつ止められる見込みがあるのだろうか。

 保護貿易には貿易転換効果をともなう。仮に東京23区の大学の学部定員を抑制したら、地方の高校生が地元の大学に行くという根拠は薄弱である。23区以外の東京圏や、西日本であれば関西圏の大学に行き先を転換する可能性は大きい。こうした告示を出す前に、少しでも政策効果の分析は行ったのだろうか。