文部科学省は8月、東京の私立大学の定員増抑制の告示案を公表した。地方大学の経営悪化や撤退を防ぐためとされるが、このトランプ大統領のような「保護主義」は日本の大学の質を低下させ、真の地方創生戦略に反するものである。

文部科学省が大学の一極集中を是正する方針を打ち出したが……(写真=HIKARU MIKI/SEBUN PHOTO /amanaimages)
文部科学省が大学の一極集中を是正する方針を打ち出したが……(写真=HIKARU MIKI/SEBUN PHOTO /amanaimages)

 文部科学省が東京23区内にある私立大学の定員増を、2018年度から原則として認めない大学設置に関する告示の改正案を8月上旬に公表した。これは政府のまち・ひと・しごと創生会議の「東京都の大学収容力が突出して高く、このまま定員増が進むと地方大学の経営悪化や撤退を招きかねない」との報告書が6月に閣議で了承されたことを受けたものだ。だが、こうした「地方大学の保護主義」には大きな問題がある。

 地方の活性化は重要な政策課題だが、その主要な柱が「東京一極集中の是正」のような地域間の所得再分配政策なら、日本経済全体の縮小均衡をもたらすだけである。東京は国内では一人勝ちのように見えるが、欧米やアジアの主要都市との競争では立ち遅れている面は多い。グローバル経済化や高齢化社会に対応するために、小池百合子知事の公約にある「東京大改革」が必要な所以である。

 今後の人口減少社会では、将来の日本を支える若者に対する教育の質向上が大きな課題である。そのためには、トップクラスの大学の研究レベルをさらに高めるとともに、全国のミドルクラスの大学間で教育サービスの質向上を目指す。そのためには健全な競争の促進が必要であり、各大学が教育面でのベスト・プラクティスを開発し、その成果を共有することが本筋である。

 これに逆行するのが、本年6月の全国知事会の「東京23区への若者の流入が増える流れを直ちに止めるよう文科省に指導強化を求める」という声明である。ここでは東京圏への若年層の流入数と流出数との不均衡の是正という、まるでトランプ大統領の貿易不均衡批判と同じ論理で保護主義を正当化している。

 こうした民間の教育活動にかかわる政府の介入を、国会の審議を経た法律ではなく、文科省告示という「行政主導」で実施すること自体に対する法的根拠も問われなければならない。本来、地方分権化を主張しているはずの全国知事会が、こうした不透明な形での国の介入を積極的に求めるのは、論理矛盾ではないだろうか。

 そもそも若者の大学進学の「選択の自由」を抑制する「保護主義」によって、地方の大学は活性化するのだろうか。すでに18歳以上人口が長期的な減少基調にある時代に、私大の4割に及ぶ、持続的な定員割れ大学をすべて守ることは非現実的である。企業と同様に大学についても「集中と選択」の原則が必要である。例えば、地域ごとの中核都市に多様性のある大学を育成し、周辺地域から若年層も含めた人口を呼び込むコンパクト・シティ政策を実現できれば、福岡のような魅力的な大都市がもっと生まれるだろう。

 大胆な統廃合とリストラで、地方にも活力ある大学を増やし、他の地域と競争することが地方創生の本筋だ。現に関西圏の私大は元気であり、それ以外でも新潟の国際大学、大分の立命館アジア太平洋大学、秋田の国際教養大学など国際的水準の大学が、日本人だけでなく質の高い留学生も集めている。また、金沢工業大学など、就職率の高さを誇っている地方私大も少なくない。

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